企業色を出しすぎるとユーザーは興ざめする?
――御社の公式ブログで、大村さんの「Adobeのノベルティを勝手に作ってたらAdobeから連絡が来た件」という連載を始めたそうですね。これまでに、読者やユーザーの方からどういった反応がありましたか?
西山:SNSの知人や友人からは「本当にやるんだ(笑)」というポジティブな反応を多数いただきました。また、これまであまりお話しする機会のなかった弊社の社員からも、「楽しみにしてます」と声をかけてもらえるようになりました。
――「PDFハンガー」はGIZMODOなどTwitter以外のネットメディアでも話題になりました。実際に商品化までいけば、きっとまた話題になると思いますが、それまで何か御社のほうから仕掛ける予定はありますか?
西山:SNSやネットで盛り上がったネタは、企業側があまり企業色を出しすぎると興ざめしてしまうと思っています。なので、今回も「『PDFハンガー』を制作するまでの試行錯誤を大村さんが連載で伝える」という形にしました。僕の頭の中には連載の最終回に向けたビジョンはあるのですが、実現の可能性がとても低い上にネタバレになってしまうので、ここでは内緒にさせてください。

最大の動機は「具現化したい」という衝動
――大村さんの連載を開始した意図についてお聞かせください。拝見したところ、御社の新製品「Dimension」のPR要素も見受けられますが?
西山:「DimensionのPR」は、率直に申し上げると後付け設定です。大村さんにお声がけした時点では、とにかく「このハンガーを実物大のノベルティとして作ってみたい」という衝動を具現化することが、最大のプライオリティでありモチベーションでした。
幸い、Creative Cloudには多種多様なクリエイティブをサポートする様々なアプリケーションやサービスがふんだんに盛り込まれています。そのため、今回のような企画であったとしても、それがクリエイティブに関するコンテキストに沿っている限りはフレキシブルに対応することができるのです。
――御社と大村さんのコラボですが、似たようなケースとしてロフトさんがキングジムさんの没ネタを商品化したというものがあります。同じような提案があった場合、どうされますか?
西山:本社のブランディングチームとの交渉が改めて必要になるとは思います。ですが、欲しいと思われる方々の声が十分に大きければ、日本チームの意思決定層のサポートで実現する可能性は極めて高いと思います。
――「ネットで話題になったネタに企業が便乗する際の注意点」など、MarkeZine読者に何か有益なアドバイスをお願いします。
西山:僕自身もこういった企画に絡むのは初めての体験でしたが、とにかく心がけたのは「『PDFハンガー』という素晴らしいアイデアに対するリスペクトを、大村さんにきちんとお伝えする」ということです。
元々のアイデアがおもしろくて素晴らしいものであれば、現代のネット社会では早晩話題になると思います。「企業のノベルティを勝手に考える」という大村さんの一連の作品はどれも素晴らしいものであり、クリエイティブのためのツールを提供している弊社としても、なんとかして絡めないものかと個人的には考えていました。
そこで、偶然にもAcrobatのロゴをモチーフとして取り上げていただいたのです。文字通り「渡りに船」でした。「何か話題になるようなこと」を自分たちで考えるのはなかなか難しいですよね。まずは、自社のビジネスにつなげられる良いアイデアやチャンスと巡り会えた時に、すぐに行動に移せることが重要なのだと思います。
――どうもありがとうございました。
SNSとブログをリンクさせることで拡散性を増幅させ、ユーザーからの自然発生的なリアクションを期待している西山氏と大村氏。主体的に展開していくというよりは、SNSやブログで途中経過を公開し、それを見たユーザーの生の声を反映して進めていこうとしているプロジェクトのように見えます。
企業経営の現場では、トップダウンやボトムアップといった言葉がまことしやかに囁かれて久しいですが、ユーザーの生の声こそが正解ということもあります。企業に属する一社員ではなく、一個人として大村氏の企画に乗った西山氏。熱量が高ければ、個人からでも会社を巻き込んだプロジェクトに昇華できるという良い例ではないでしょうか。