動画は既存のマーケティングの何を代替するのか
目的を明確にすることで、ひとつの施策から最大限にナレッジを得ることができる。実際、マネーフォワードが最初に実施したテレビCMキャンペーンでは、ID獲得を目的にしていた。が、それ自体は奏功したものの、継続が難しいユーザーが発生してしまったという。「そもそも我々はどうあるべきなのか、長く使ってもらうことをより重視すべきではと話し合い、第二弾では継続性に注目してクリエイティブを開発したところ、一過性ではない効果が得られた」と木村氏は振り返る。
前述の“盛り込みすぎない”ことも、ポイントのひとつだ。デジタルエージェンシーの立場では「1本にまとめず目的別に複数本に分け、フリークエンシーを管理しながら各ファネルに適切にアプローチすることもある」と有賀氏。1本ですべて解決するのは、なかなか難題だといえるだろう。
続けて青木氏は「売上への貢献や“盛り込み過ぎ”の議論にしても、実は『この動画は既存の何を代替するのか』を考えることが大切なのでは」と話す。“動画が売上に貢献しているのか”という問いは、漠然としている。たとえば「いらっしゃいませ!」という店頭の挨拶を動画で代替するのか、それとも店頭カウンセリングを代替するのかによって、効果の捉え方は変わる。
「以前はあり得なかった、動画を一人ひとりの端末に届けられる状況を前提に、その目的を細かく見据えながら、様々な手法を総合的に使ってどう事業成長を目指すか、という議論が必要だと感じている」(青木氏)
5G時代の開始を見据え、試行錯誤が資産になる
最後のテーマは、これから取り組んでいきたいことについて。青木氏は、当面はオリジナルドラマや映画の製作に注力したいと話す。直近で制作した動画をYouTubeのインストリーム広告に出稿したところ、50万回の平均視聴が9分15秒となり、想定以上の費用対効果だったようだ。
企業のプロダクトプレイスメントを組み込んだ協賛ドラマも、これなら一定の効果が出るのではと踏んでいる。また、映画については「リアル店舗がない我々にとって、映画は全国10館でも配給できれば、ポップアップショップの代替になると考えている。顧客や潜在顧客に、リッチな体験を提供する場になれば」と、新しい見方を投じる。
中條氏は、「社というより個人的な考え」としながら、メディア企業やインフルエンサーとより柔軟に組んだ制作の仕方を探りたい、と語る。動画メディアがテレビに限られていた時代と違って、場所が多様化し、また誰が伝えるかという点でも幅が広がっている。「一般の生活者と組んで、その視点でまた生活者へ伝えることを強化すると、全体的なコミュニケーション効率が上がるのでは」と中條氏。

一方、木村氏は「今後はファネルの最後になる“ファン化”への動画活用に注力したい」という。サブスクリプションのモデルのため、離脱率を下げるのにファン化は重要な観点だ。お金にまつわるサービスは口コミが起きにくいため、その部分でも動画を介したコミュニケーションでフォローしていく。
「今後、5Gの開始も控え、動画はますます一般的で手軽な形態になるだろう」と有賀氏は指摘する。まだ正攻法や定石があるといえる段階ではないが、だからこそ試行錯誤を続けることで、次のフェーズで狙いを定めた活用ができるのではないだろうか。