事業のハンドルを握る、カスタマーサクセスとは?
――Sansanにおけるカスタマーサクセスの定義を教えてください。
小川:「顧客の成功に向けてSansanの価値を届けLTV最大化を実現する」ことをミッションとして掲げています。お客様の成功が第一で、Sansanというプロダクトを通してお客様の成功が作れないと意味がありません。
ただ、お客様の成功にコミットするためにはカスタマーサクセスチームだけでは足りません。Sansanではもとからマーケティング、インサイドセールス、営業、プロダクト開発、カスタマーサクセス、サポート、業務企画など各チームが協力し、事業部全体で取り組んでいこうという「7人8脚」の思想があります。
カスタマーサクセスは契約しているお客様のフロントとして責任を担い、営業、プロダクト開発、サポートとうまく連携しながら、お客様のビジネスを成功に導いていきます。事業部全体で取り組めば、結果的にお客様に長く使っていただける状態にできます。
――カスタマーサクセス部が設立されたのはいつ頃なのでしょうか?
小川:2012年です。カスタマーサクセスという概念を形成したSalesforce社は、2005年にカスタマーサクセスチームを設立しています。2007年に創業した弊社も、Salesforce社の動きを取り入れてきました。そしてSansanの事業が成長し、一定の規模になってきたときに、弊社もカスタマーサクセスを取り入れる時期だと判断したのが2012年だったのです。
ただ、カスタマーサクセスをしっかり実践できていたかというと、なかなかできていなかったのが実状で。人数も少なかったしノウハウもありませんでした。Salesforce社をはじめとしたグローバル企業の取り組みを参考にし、2015年からカスタマーサクセスの定義を作り直し、組織体制も整えていきました。
――小川さんが考えるカスタマーサクセスの役割はなんでしょうか。
小川:カスタマーサクセスは、サッカーで例えると「ボランチ」的な役割を担っていると思います。平たく言うと、守備の要ですね。サブスクリプションサービスの場合、解約率をどれだけ0に近づけるかが大事です。サッカーであれば、失点しなければ引き分け以上にできるわけで、必ず勝ち点がとれるんです。
プロダクト導入後、満足いただける状態に持っていくのはカスタマーサクセスの仕事。その後どうつなげていくかは営業、プロダクト開発、サポートと連携しながら進めます。そこからアップセルや契約拡大が見えてくるのです。
チームメンバーには「ボランチとしてLTV最大化の要となる部分を担っているから、カスタマーサクセスが事業のハンドルを握っている」と伝えるようにしています。
テクノロジーなきカスタマーサクセスは、カスタマーサクセスではない
――カスタマーサクセス部の構成を教えてください。
小川:今は40名在籍しています。Sansanの契約企業は現在約7,000社に上りますが、顧客のフェーズによって、ハイタッチ、ミッドタッチ、テックタッチの3つグループでそれぞれに応じた対応をしています。
ハイタッチはエンタープライズ系の顧客に向けて、専属担当をおいて個別対応をしています。カスタマーサクセスマネージャーは、一人あたり30~50社ほど担当しています。ミッドタッチは、オンボーディング(導入後の最初の二ヵ月)期は密なフォローをするが、ハイタッチほどは個別対応しません。メールや電話はするが訪問はしないイメージですね。テックタッチの領域だと、個別対応はせず、MAをはじめとしたテクノロジーを駆使して対応しています。
――ハイタッチレベルでも1人が30~50社を担当するとは、多い印象を受けます。
小川:前提としてSansanはクラウドサービスであり、お客様がサービスそのものをシェアして使うものです。なので、お客様には「スクラッチで作ったシステムのような個別対応するサービスではありません」と、事前にお伝えしています。そうでないと、クラウドサービスは成立しません。担当企業数が多い少ないという論点を上げた瞬間に、このモデルは破綻します。
最近カスタマーサクセスが流行ってきていますが、カスタマーサポートと混同されるケースが増えていると感じています。カスタマーサポートは問い合わせを中心としたお客様の問題を対処的に対応しますが、カスタマーサクセスはお客様の問題を事前に想定し先まわりして対応します。つまり、Reactiveなカスタマーサポートに対して、カスタマーサクセスはProactiveであるといえます。
Proactiveであるためには、非効率な状態をいかに効率化させるかがポイントです。そこにはテクノロジーが必須です。テクノロジーのないカスタマーサクセスは、もはやカスタマーサクセスではないと思っています。