「可愛い!」の一言を理解できる強み
木村氏は、子育てと仕事を両立してきた自身の経験や、また前述の「暮らしになじむデザイン」に参加した各社デザイナーに圧倒的に女性が多かったことなどから「生活者の視点に立てることは、確かに女性マーケターの利点のひとつ」と話す。

「若手女性デザイナーの皆さんが『自分の部屋に置きたいデザイン』というお題に、本当に生き生きと取り組んでいたのは、印象的だった。ダイバーシティの考え方の中で、女性の活躍の場を増やすことは、イノベーションにつながると思うので、今後もパートナー企業とはそういった部分も一緒に進めたい」(木村氏)
生活者の立場では、マーケティングの“戦略”や“戦術”などはどうでもいい。特に、感性で選ばれることの多い消費財の場合、「あれこれ積み上げても『可愛い!』の一言に集約されることもしばしばある」と小和田氏。その感覚が女性マーケターで共有できても、男性の場合はピンとこないこともあるようだ。
リュウ氏は自身の生活者へのアプローチを「サンドウィッチ型」と解説。潜在的なニーズや求められていることを感性でキャッチし、戦略に落とし込み、実践の段階では改めて感性にトランスフォーメーションする、という流れだ。
このように右脳と左脳を行き来しやすいところは、女性マーケターの利点としてよく語られる。「男性の理論的な組み立ても大事だが、相手の感覚をくみ取るのは、やはり女性が強かったりするのだろう」と吉柳氏。パネリストの面々は、決して“女性だから”現在のポジションを得ているわけではないが、海外に比べて日本ではまだ女性CMOや女性マーケターが極端に少ないことは、組織の観点からはロスを生んでいるともいえる。
小さな「やらかし」を学びと自信に
最後には、吉柳氏も交えて「自身の“やらかした・オブ・ザ・ライフ”は?」という問いが立てられた。自分の考えや熱量が強いあまりに上長やクライアントへも強く主張しすぎてしまった……という、先の「女性はポジションを気にせずに、やりたいことへ邁進する」との話がよく表れた経験も複数挙がったが、それについて決して後悔している素振りではないことも、また印象的だ。実際にその後に結果が付いてきていることで、むしろ自信につながっているとも見受けられた。
一方で、小さな“やらかし”は、むしろ大事だという共通意見も。木村氏は「小さな失敗はたくさんあったが、自社の規模がまだ小さく自分も若手のころで、それがすごくいいことだったと思える。仕事の規模が小さい時、若い時にどんどん失敗し、苦手分野をわかっておくのは必要なこと」と続ける。
失敗の大切さには、小和田氏も賛同する。その背景には、この変化の早い時代に成果を得るにはトライ&エラーが欠かせなくなっていることもある。新しい広告や手法を試してうまくいかなくても、いちいち落ち込んでいては立ち行かない。「失敗を恐れず、そこから学びを得て前進すること。叱られることもあるだろうが、一生懸命やって失敗したなら、上司もなんとかしてくれるし、私も『謝りに行くのは上司の役目』と話している」と小和田氏。
旧来の手法が通用しなくなっている生活者に、どうアプローチしていくべきか。若い来場者にはエールを、また部下を持つ役職者には組織やチームづくりの示唆にも富んだセッションとなった。