今、マーケターとして最も重要視していること
気鋭マーケターの視点を学ぼうと、朝9時からのセッションには多くの参加者が集まった。そのテーマは「今、マーケターが考えるべきこと」。ベクトルグループの吉柳さおり氏をモデレーターに、ライオンの小和田みどり氏、アスクルの木村美代子氏、そしてFOLIOのリュウ シーチャウ氏と、いずれも実力のあるマーケティングのリーダーが、今最も重視していることを語り合った。
言わずもがな、長く生活者の要望に寄り添っているライオンと、顧客体験を重視した個人向け通販のLOHACOが好調なアスクル。P&Gやジョンソン・エンド・ジョンソンで手腕を発揮してきたリュウ氏は、フィンテックベンチャーのFOLIOにて、「VR」や「京都」といったテーマごとに気軽に投資できるサービスの市場開拓に取り組んでいる。
また吉柳氏は、複雑化し混沌とするマーケティング環境に触れ、「新しいソリューションやテクノロジーが出てきたからといって、どうにかなるわけではない」と課題を指摘。それを表すように、PR会社の印象が強いベクトルグループも、クライアントの課題にすべて内製で応えようとしてきた結果、「グループの事業会社は今46社に上っている」とグループの概況に言及する。
そんな彼女らが最初にセッションで挙げたトピックスは、「注目しているマーケティングのトレンドと取り組み」について。これに対しライオンの小和田氏は、「情報やモノに対して“ほしい”と思う気持ちが薄れている。その中でファンになってもらうのは、とても難しい」と語る。
そこでカギになるのは「顧客の課題をいかに速く知り、ブランドをどう掛け合わせるか」という視点だ。それを具現化した施策のひとつとして、小和田氏は、クリーニング業者と提携して着なくなった服を預かり、NANOXで洗浄して譲るという「トップ スーパーNANOX おさがりプロジェクト」を紹介する。
共感を得るためのカギを握るのは「デザイン」
プロジェクトの発端は、着なくなった服の処理に困っているという悩みだった。「子ども服を中心に、まだ着られるから捨てるのは忍びないという思いや、それをメルカリなどで売買している状況、またファストファッションの浸透で服を買うことが増えた一方で、“ミニマリスト”のようなブームで片付けに頭を抱える人々の姿があった。そこで、こうした悩みをブランドで解決できないかと考えた」と小和田氏。
実際に今年の8月末、テレビ番組のイベントとタッグを組み全国7ヵ所で服を回収したところ、「こうした取り組みをぜひ広げてほしい」という声が多く聞かれたという。ブランドが生活者に寄り添う姿勢から共感を得て、認知からファン育成につなげる考えだ。
続いて木村氏は、かつてのマスマーケティング・マスセールスに対し、LOHACOで生まれているECならではの多品種・中量販売という潮流を挙げ、「分散するニーズに細かく応えて“スモールマス”を生み出し、それを広げている」と話す。
その中でも特に注目しているのが、小和田氏も挙げた“共感”というキーワードだ。「共感マーケティングはとても重要だと捉えており、それを実現する手段としてデザインに力を入れている」と木村氏。LOHACOでは、2015年より「暮らしになじむデザイン」とのコンセプトの下、メーカー各社とコラボした商品開発・販売に取り組んでいる。通常、店頭販売用の商品パッケージは目立つために主張が強いことが多いが、このプロジェクトではデザイナー自身が「家に置きたい」という視点を重視して開発している。中には、通常版より少し高価格にも関わらず、7倍も売れた商品もあるという。