AdMobの買収とエンハンストキャンペーンの登場
杓谷:スマートフォンが登場したことで、2008年12月にAdWordsはスマートフォン向けの配信に対応しました。AdWordsのキャンペーン設定画面の中に元々携帯電話用の管理画面があったのですが、その中に「フルブラウザ搭載の携帯電話」というスマートフォン用のチェックボックスが出てきた、という感じだったと思います。スマートフォンの小さい画面の中でデスクトップ用のサイトを見る、という感じでした。
2008年、2009年頃のスマートフォンのトラフィックはまだまだ小さかったので、ある意味デスクトップのおまけといった感じでしたが、スマートフォンが徐々に普及していき、Googleは2009年にアプリ面のアドネットワークであるAdMobを買収し、GDN(Google Display Network)に組み込みます。

杓谷:さらに、2013年には「エンハンストキャンペーン」が登場します。エンハンストキャンペーンではデスクトップの比率に対して+20%、-20%といったようにスマートフォン向けに入札価格を調整できるようになりました。
当時はモバイル用のWebサイトが普及していなかったので、スマートフォンでもデスクトップのWebサイトが表示されることが多かったのですが、スマートフォンの小さな画面でデスクトップのWebサイトが表示されても、住所や名前、クレジットカードの登録などが難しく、スマートフォンでのコンバージョン率が如実に低かったためです。
しかし、まだこの時点ではデスクトップの入札価格が基準となっているため、デスクトップが優勢であることには変わりありませんが、スマートフォン経由のトラフィックが増加してきたことの象徴的な出来事のひとつでした。
ヤフーの井上社長の退任
杓谷:2013年、それまでヤフーの代表を務めていた井上雅博さんがモバイルへの対応に舵を切ることを理由に代表を退任し、後任に宮坂学さんが就任します。「爆速」をスローガンに宮坂さんがYahoo! JAPANのモバイル化を進めていたのは記憶に新しいところですが、これも時代を象徴した出来事と言えますね。
佐藤:インターネット広告の歴史の中で、Yahoo! JAPANは絶えず大きな存在でありました。Googleの話をするのにYahoo! JAPANの説明から入る必要があったほどです。デスクトップの世界では変わらず大きな存在ではあるものの、モバイルという新大陸が登場したことによって、勢力図に変化が現れるようになりました。
岡田:これから運用型広告の世界に入ってくる方たちはYahoo! JAPANのことを我々世代とはまったくちがう存在として受け止めているのではないでしょうか。 2013年前後のスマートフォンの隆盛によって時代の流れが大きく変わっていきましたね。
「次の四半期から開発リソースをすべてモバイルに割り振ります」という話がアプリやDSP業界の方々から出てくるようになったのがこの2013年頃です。デスクトップが横ばいからダウントレンドになってくるのが見えてきて、次の注力先をネイティブアプリにするのかモバイルブラウザにするのか、といった迷いはあったかもしれませんが、少なくともデスクトップにはもう注力しない、という共通見解がありました。ここから完全にスマホの時代に切り替わったと思います。