ポイント2. 既存の仕組みを活用する
いかに小さな力で大きな効果を得るか。コストパフォーマンスの追求は、ビジネスにおける永遠の課題です。そしてそれは、広告に関しても同じこと。短い映像や小さなスペース、限られた予算で大きな広告効果を生み出すためには、既存の仕組みや文脈を活用して広告することが有効であり、それが上手くいった事例も、カンヌライオンズで一貫して評価されています。
「有名ミュージシャンたちに愛されてきた」歴史を活用
たとえばこちらは、数々のミュージシャンに愛されてきたブランドの歴史と検索エンジンの画像検索表示機能を活用した、バドワイザーのキャンペーンです。「1965 POOLSIDE FRORIDA Budweiser」など、検索すると有名ミュージシャンたちが商品を手にしている写真が見つかる一般名詞と商品名の組み合わせを広告にして、賢く著作権を回避。莫大な出演料を支払うことなく、より信頼性の高い事実ベースで彼らを疑似起用し、ブランド広告を展開することに成功しました。キーワードの総検索数は5,000万回を超えています。
Budweiser「Tag Words」
「有名ブランドの偽物」が溢れているという文脈を活かす
DIESELのブランドメッセージは、「Go with the Flaw.(完璧なんて、ない)」。そこでDIESELは、自身の偽物、つまり「完璧ではない商品」を、「DEISEL」という公式パチモン化してひそかに売り出し、しばらくしてから、それらが本当にDIESELによる商品であることをネタばらし。「DIESELは、欠陥があったとしても好きなものを着ることを応援する」というブランドメッセージを伝えました。
DIESEL「Go with the Fake」
元々広がっている「有名ブランドの偽物」という文脈を使うことで、メッセージはキャッチーかつ拡散しやすくなり、若者の間で話題に。また、服そのものをSNSで広がりやすいメディアとして活用しました。
「キレイな服を着た広告ばかり」という慣習を利用
こちらは「すべての広告は、タイドの広告だ。なぜなら、みんなキレイな服を着ているから」と言い張る、P&Gの洗剤ブランド「タイド」のキャンペーン。
P&G「It’s a Tide Ad」
この広告を見た後は、他の広告すべてがタイドの広告に見えてきて、何を見てもタイドを思い出してもらえるという現象が巻き起こり、短期間にハッシュタグが4万5,000回も使用されるなど、大量の口コミやパブリシティーを獲得。売り上げも、35%上がりました。「キレイな服を着た広告ばかり」という慣習を利用した、クレバーな施策です。流行りすぎて他の広告が「※これはタイドの広告ではありません」と注意書きを入れるようになったところまでの一連のストーリーが秀逸ですね。
そしてこちらは、世界一注目度が高いと言われているスーパーボウルのCM枠でローンチしたのが大きな勝因であることも、見逃せないポイント。
優れた広告は、媒体費をかけなくてもそれなりに広がりますが、きちんと媒体費をかけると、比べものにならないくらい爆発的に広がります。そして、そのほうが案外、コストパフォーマンスが高かったりするものです(市場原理が働いてその価格に落ち着いているので、当然と言えば当然ですが……)。
投資すべきところには、きちんと投資する。その勇気が、大きな利益に変わるのですね。
アイデア勝負の広告は早い者勝ち
こういった広告の肝は、その仕組みの発見であり、基本的には、同じ要素を持つ他のブランドでもできる施策なのですが、その効果を十分に得られるのは、最初に実施したブランドだけ。早い者勝ちです。
ポカリスエットの「自分は、きっと想像以上だ。」などのように、コピーで普遍的に共感されるメッセージを発信し、その効果をそのブランドのものにする戦略と同じですね。
競合各社の技術レベルが一様に上がり、商品スペックでの差別化が難しくなってきた現代。それは、USPを打ち出すことにこだわって些末なスペックの違いを伝えるよりも、普遍的で強いメッセージや手法を使ってブランディングしていったほうが、結果的に、多くの利益を得られる時代なのかもしれません。自社が以前ボツにしたアイデアで他社が成功するといったことのないようにしたいものですね。