ポイント3. 言葉の壁を、言葉で越える
世界中にメッセージを届けたいとき、障壁となるのが「言語の違い」です。これに対して、普通は、言葉を使わない方法を考えるでしょう。しかし、言葉を使ったアイデアで、言語の壁を越えることだってできるのです。
どういうことかというと、「言葉の構造」自体をメッセージとするのです。わかりやすく日本語のコピーを例にすると、たとえばこういうケースです。

完璧な文法を求めすぎる日本の英会話教室へのアンチテーゼとしてうまれたコペル英会話教室による、「最初と最後の文字さえ合っていれば、まんなかの文字列はめちゃくちゃでも認識できる」という認知言語学の理論を応用した、この広告。
こちらは、私が手がけたコピーなのですが、この言葉の仕組みは、日本語がわからない外国人にも伝わりますし、他の言語でも展開可能です。
私は、コピーライターとしてキャリアをスタートさせたこともあって、アイデアだけでなく、言葉そのもので言語の壁を越えるということにも興味があり、そういった点にも着目して、企画・研究しています。そして、そのアプローチもまた、カンヌライオンズで評価されているのです。
ロゴ文字の並べ替えで、謝罪の意を伝える
チキンの配達遅延によって多くの店舗を臨時休業したことに対するこちらの謝罪広告は、「KFC」を「FCK」に並び替えて社名を「F●ck」という意味にするという、世界中に伝わる自虐アイデア。
Kentucky Fried Chicken「FCK」
大切なロゴを変えてまで真摯にお詫びする姿勢とそのユーモアが大きな反響を呼び、かつてないほど好意的に受け入れられた謝罪広告となりました。まさに、ピンチをチャンスに変えた広告です。
トラブルは、ある意味、自社に注目が集まる絶好の機会。誠意あるアイデアと勇気さえあれば、ブランドの価値を下げないどころか、上げることだってできるのです。自粛しておとなしくするだけが、誠意じゃない。生活者はそのことを、ちゃんとわかっているのですね。
文字に新たな部首を加え、男女平等にアップデート
こちらは、中東の子ども用品店の施策です。アラビア語では、「親」を表す字に「父」を表す部首しか入っていません。そこで、「母」を表す部首を加えた新しい「親」という字を作成したのです。

その結果、辞書にこの字を加えるよう署名運動が起き、子どもたちにこの字を教える学校まで現れました。ブランドの好感度も、32%向上しています。この施策自体もこのブランドの温かさも、アラビア語がわからない人にも伝わるし、同じ要素を持つ他言語にも展開できますね。
世界に通じる広告コミュニケーションを
以上、3つの切り口で、2018年のカンヌライオンズを受賞した世界の広告コミュニケーション事例をご紹介しました。この記事がきっかけで、グローバル視点の素晴らしいキャンペーンが日本から生まれたら、なにより嬉しく思います。
世界の壁は、思っているより、ずっと低い。言葉でさえ、言葉の壁を越えられるのですから。
京都大学にてマーケティングを学んだ後、I&S BBDOに新卒入社。
2018年ヤングカンヌ日本代表、ヤングロータス日本代表。
双方の日本予選で優勝し、日本代表になるのは史上初。
Cannes Lions Gold、Spikes Gold、Spikes YOUTUBE Creative Hack世界TOP3、TCC新人賞、ACC賞アンダー29、広告電通賞最優秀賞など、国内外で多数受賞。