マスの広さとデジタルの深さを融合
――“ガチ”の動画をたくさん集めるのは、ハードルが高かったはずです。“ガチ”にこだわりつつ、投稿の量と質のバランスを取るために、どのような工夫をされたのですか?
眞鍋:たくさんの量を稼ぎたいなら、ダンスは簡単なほうがいいです。ですが、同じようなことは他社さんもやっていたので、「同じ土俵に乗るのではなく、質を獲ろう」と。
大塚製薬さんにも、「100くらいしか集まらないかもしれません」と、数が獲れないリスクを最初に共有しました。蓋を開けてみたら、募集期間わずか1週間で600人集まったんですが。
山本:量ではなく質で勝負するというのが、大塚製薬さんの企業文化としてもマッチしているので、非常に前向きに考えていただけましたよね。
正親:どうしたら参加してくれるかを考える時に重要なのは、インセンティブです。何か良いことがないと、みんな当然参加しませんから。
あとは、元々ある要素を見つけることがすごく大事。「頼んでもいないのに、女子高生が動画を投稿しているけど、あれは何なんだろう」と。「ダンスをしたい子たちは目立ちたいんだ」という要素をきちんと見つけて、絡められるかどうかですね。
眞鍋:マスの広さとデジタルの深さの融合は、やりたくても業界がなかなかやらないところです。正親さん含めマスのスペシャリストたちが、デジタルも一緒に考えてくれたので、僕としてはすごくやりやすかったです。マスとデジタルのカルチャーはけっこう違うので、だいたい分断するんですよね。
正親:敵対しちゃいますよね(笑)。
眞鍋:お互いにお互いをよく思っていない時代が長かった(笑)。正親さんと僕は、もともと同じ部だったし、他にも色んな条件が重なって、とても良いチームになりました。
山本:営業というフロントラインがクリエーティブとデジタルのハブになって、マス広告をデジタルに落とすという構造になってしまうと、どうしても幕の内弁当というか、パッチワーク的というか……。融合感の弱いキャンペーンになってしまう。こういう失敗を繰り返してきましたので、クリエーティブが最初の段階からマスとデジタルの両方の視点を持って企画できるこのチームは、強くなるだろうという確信がありました。
良いものを作るチームには「いい加減さ」も必要
――ポカリスエットのキャンペーンを通して、マス×デジタルを成功させるために、大切なポイントはなんだと思われますか?
正親:ぼや~んとしている「いい加減なこと」がすごく大事だと思います。チームの中でつながりがあって、思いついたことを単純に口にできて、クライアントと広告会社がモノを考える距離も近くて、間に入ってくれる営業も機能している。「それはもう決まっているから」というのではなく、何となく言ったことも動かせるみたいな、ゆるさが大事。中国なんて、ずっとそれをやっていると思いますよ。とにかくやってみて、間違えたらやり直そうみたいな。
もちろん、そのゆるさを実現するためには、スタッフがきちんとしていなければなりません。「企画は通った。あとは、CMを2本作れば終わり。」ではなく、常に考えて「ここはもうちょっとこうしたほうがいいから、プレゼンしに行こう」みたいな間柄であれば、ゆるさも生きますよね。
山本:それが許されるには、全体を見てくれるトップがいて、みんなが泳ぎやすい組織であることが必要ですよね。アジャイル的に、良いものをすぐに拾って動かせるという環境は、チームの信頼関係によるものです。我々とクライアントのワンチーム感は、1年目、2年目、3年目と成功を積み重ねながら築いてきたものですから。
正親:あと、一番上の人が見ていないところでやるのも大事(笑)。当たった企画を次につなげればいいだけです。失敗が許される土壌があることも、すごく大事だと思います。