最終的にビジネスが厳しくなるのはテレビ局

有園: 「オンライン送稿になりましたけど、うちもやっているのでそのままうちで対応しますよ!」といわれてしまうと、クライアントや広告会社サイドもわざわざ切り替えないということですよね。仕組みの構図をみても、効率化の余地も相当あります。
私が思うに、そもそも手動で10桁CMコードの発番作業をしている時点で、プログラマティックTVや、さらに欧米で実装されているアドレッサブルCMに対応できないだけでなく、これから放送と通信の同時配信が開始していく中では絶対に成り立ちません。プリント費云々の話は、テレビ局には1円のビジネスにもなっていないから、最終的に収益が厳しくなるのはテレビ局だと思うんですよね。
田中:はい、テレビ局のご担当者も危機感を持たれていて、何かしらの変化を起こさなければと情報収集をされています。当社も欧米の先進的な情報の提供や視察の支援をしていますが、最新の放送技術や広告商品には関心が高いですね。つい先日にも日本の放送局関係者からなる英メディア視察ツアーのお手伝いをさせていただきました。
有園: なるほど。ではここからは、その最新事例をご紹介いただけますか?
田中:はい、欧米の事例はいくつもあり、テレビ局の新しい広告商品として、また制作会社のクリエイティビティーの活かし方としても参考にしていただいています。大きくいうと、テレビCMのオンライン化によって、いろいろなシステムやデータと連携した“アド・オーケストレーション”が可能になっています。これは当社が考案したワードですが、要するにすべてが連携・自動化することでより一気通貫に動画広告活動を指揮できるイメージですね。
プログラマティック取引に対応したCMの最新事例
有園: 確かにオンライン化すると、ネット広告の“運用”にかなり肉薄しますね。
田中:そうなんです。まずひとつ目の事例は2012年ロンドン五輪で、スポンサーである通信会社のAT&Tが展開した、米国のメダル獲得をセレブレーションするCMです。水泳で米選手がメダルを獲得した翌日、実際の競技映像と、その記録を実際に書き込んだ映像を組み込んだCMが放映されました。
田中:当然、メダル獲得はその瞬間までわかりませんが、米選手がメダルを獲ると期待されている水泳、陸上、体操に絞って、記録が出そうな選手のその記録を予測して何パターンもの映像を用意していました。記録が出てから、その撮影映像と、実際の競技映像を組み合わせて送稿したのです。視聴者の感動が新鮮なうちに、その感動をCMに展開する好例でした。
日本でも、2018年平壌五輪でスケートのメダル獲得直後に「メダルおめでとうございます!」というCMが放映されて話題になりましたが、こうしたことがまだ普通に行うことができない状況があります。
有園: なるほど。というと、オンライン送稿が一般化すれば、米AT&Tの事例のように、速さだけでなく高いクリエイティビティをともなう企画性で、何百通りも用意する制作費を得られる可能性がある?
田中:そうですね。制作会社にとってもオンラインならではのクリエイティブにより、新たな差別化や収益モデルの可能性も出てくるかもしれません。もちろん、クロスプラットフォームに同時に変換して、DOOH(デジタル屋外広告)もYouTubeもLINEもTwitterも、一斉に入稿して差し替えることが、ブランドメッセージの強化に重要だということもありますが、それ以上にテレビ局にとってはターゲティングの可能性も秘めています。