※本記事は、2018年12月25日刊行の定期誌『MarkeZine』36号に掲載したものです。
この数年、世界各国で勢いを増しているリテールのトレンドが「ポップアップストア」だ。
Event Marketer Magazineによると、その市場規模は米国だけで500億ドル(約5兆6,000億円)に上るという(PopUpRepublic調査)。またCEBRの2015年のレポートでは、英国のポップアップストア市場は年率12.3%で成長しており、規模は23億ポンド(約3,400億円)に達したと伝えている。カナダでは小売りの専門家らが2018年は「ポップアップの年」になるだろうと予測していたほどだ。
様々なポップアップストアが登場する中で、その仕組みや様態は進化を続けている。最近ではコミュニティベースの「マイクロストア」と呼ばれるコンセプトが登場、その可能性に注目が集まっている。
コミュニティを醸成する「マイクロストア」とは?
2018年10月17日、マイクロストアのコンセプトを基に新しいリテールサービスを開始すると発表したのは、米国のスタートアップFourpostだ。
11月1日にミネソタにある米国最大級のモールThe Mall of Americaとカナダ・アルバータのThe West Edmonton Mallに、それぞれEコマースブランド向けの小売りスペースをオープンする。広さは前者が1万平方フィート、後者が5,000平方フィートだ。
EコマースブランドはFourpostから小売りスペースを借りる形となる。通常モール内の店舗であれば数年の長期リースとなるが、6〜12ヵ月という短期で借りることが可能だ。各ブランドには「スタジオ・ショップ」と呼ばれる店舗セットが提供される。このセットには、サイネージ、ライト、POS、WiFiなど店舗運営に必要な設備が含まれており、小売りブランドは24時間ほどで販売準備を済ませることができる。また来客データの分析やアカウント管理などが簡単にできるSaaSも提供される予定だ。
まずThe Mall of Americaでは22ブランド、The West Edmonton Mallでは16ブランドが店舗を開設。アパレル、アクセサリー、ギフト、美容、ペットアクセサリー、家具、飲食と幅広いECブランドが軒を連ねるという。
一見ポップアップストアのようだが、Fourpostの創業者でCEOを務めるMark Ghermezian(マーク・ガーメジアン)氏はCPExecutiveの取材で、同社のサービスはポップアップストアとは一線を画すものであると説明している。
明確な定義はされていないものの、Ghermezian氏はFourpostの小売りスペースは「コミュニティ」であるとしきりに強調しており、これがポップアップストアと異なる点であると考えることができる。ここで言うコミュニティとはFourpostの小売りスペースに出店するEコマースブランドの起業家たちによるコミュニティのことだ。
このことは同社のプレスリリースでも少し触れられている。それによると、Fourpostの小売りスペースのメンバーは、同じ考えを持つクリエイターや起業家で構成されており、同じ空間を共有することでEコマースだけでは生まれ得ないブランド間のネットワークを醸成することが可能だという。これを実現するために、Fourpostの小売りスペースにはコミュニティを醸成するためのイベント/ワークショップスペースが設けられている。リーダーシップ・プログラムや地域コミュニティに関わる取り組みが実施される予定だ。
Fourpostが小売りスペースを提供する2つのモールは、カナダの複合企業Triple Five Groupが所有している物件だ。実はこの複合企業、Ghermezian氏の家族が運営しており、そのつながりで両モールでの小売りスペース提供という運びになったようだ。
The Mall of Americaは年間来客数が4,000万人を超える米国最大のモール。モールという伝統的な空間に生まれる「マイクロストア」という革新的なリテールコンセプトが小売りシーンをどのように変えていくのか、国内外から多大な注目が集まっている。