テレビCMを取りまく変化
長らくテレビCMはその圧倒的なリーチ力から、広告主のブランド認知向上を主目的に利用されてきた。商習慣上も、生活に必要なあらゆる商材が小売店経由での販売であったため、バイヤーとの商談において、ブランド認知=GRPが商品の取り扱いを考える目安となり、現在でも売上に影響を与えている。
しかしながら、広告主のテレビCMの使い方に変化の兆しがある。米国では、テレビCMはBrand Building型ではなく、Call-To-Action型の比率が増えると予想されている※1。
※1 Credit Suisse『The Future of Advertising』
これは、日本でも同様の傾向になるだろう。その主な理由を3つ紹介したい。1つ目は、生活者の消費行動が変化し、購買をはじめとしたアクションまでの導線が短くなっていることだ。ネット通販はいつでもその場で購入が可能である。スマホアプリならインストールでアクションが完了である。金融・アパレルなどあらゆる業態のダイレクト販売が増加している。こういった業態は、ブランド認知→来店→購買という回りくどいステップは必要なく、テレビCMは獲得(アクション)を狙って打たれることが多い。また、テレビの話題に応じてサイトのインターフェースをすぐに変えられるため(小売りの店頭はすぐには変えられない)、テレビの効果を最大限に活用することができる。
2つ目は費用対効果の透明化が挙げられる。ネット広告では当たり前だった考え方が、データが整備されてきたテレビCMにも適用されるようになってきている。
テレビCMでのブランド育成の費用対効果を数字で表すことは難しいが、獲得型のテレビCMであれば効果を検証しやすい。どうせ投資するなら効果が説明できることにコストをかける、という考え方の広告主が増えつつある。さらに、ひとつの商品のライフサイクルが短くなっていることも一因である。じっくりブランドを育てていくのではなく、多産で短期間に売り切るビジネスモデルが増加しているため、短期で回収が見込める獲得型のテレビCMが好まれる。また、ダイレクト販売の業態であれば、売上が自社で即時に把握できるため、テレビCMの費用対効果の検証がさらにしやすい環境である。
3つ目は、ネット結線されたテレビが増えることによって、テレビCMでアドレサブルなターゲティングが実現しつつあること。日本ではまだ本格的な活用に至っていないが、国外では事例が出てきている。
One to Oneでのコミュニケーションは、購買ファネルの購買により近いターゲットを狙えるため、アクションに結びつけやすい。One to Oneでブランド育成をしていくことも当然考えられるが(ファンを増やすといったコミュニケーションなど)、受動的なテレビCMを使うならば獲得型広告のほうがより高い効果を得られる。
テレビCMのスマートフォン利用への効果
ここで、テレビでの露出とアクションを関連付けた事例を紹介したい。なお、ここでの「アクション」は購買だけではない。検索、来街をはじめ、あらゆるアクションが計測可能になりつつあることも最近のマーケティング上の特筆すべき進化である。
たとえばスマートフォンアプリは、自社でインストール数、アクティブユーザー数を把握できるので、マーケティング施策の効果が計りやすい。
(c)2018 SHOEISHA Co., Ltd./INTAGE Inc.(MarkeZine vol.36)
図表1は、あるニュースアプリのテレビCM接触台数とアプリ利用者数を並べたものである。データは、インテージのMedia Gauge TVからテレビCMに接触した延べ台数を算出、i-SSP調査モニターからアプリ利用者数を算出している。
2017年9月のテレビCMは「アプリで自分を変える」というクリエイティブであり、2018年4月以降は「クーポンでお得」というクリエイティブであった。アプリ利用者数を見ると、後者のほうが圧倒的に増加しているのがわかる。クーポンといったそもそものアプリサービスが改良されたという点もあるが、前者のテレビCMでは、アプリ利用者数増加への効果は見られず、後者のテレビCMではその効果がはっきりわかる。テレビCMで伝えているメッセージでアクションに効果が現れた事例だ。
現在テレビCMが非常に多いスマホゲームも、アプリ起動やインストールなどそれぞれの効果検証が可能である。また、コールセンターがある損保や通販事業者なども同じような効果測定が可能である。
テレビ番組が購買へ与える効果
テレビCMだけでなく、テレビ番組でもテレビの力を実感できる。とあるコンビニチェーンのPB商品ランキングが番組で特集されたとき、放送後の消費者の購買状況に顕著な変化が見られた(図表2)。
(c)2018 SHOEISHA Co., Ltd./INTAGE Inc.(MarkeZine vol.36)
インテージのSCI(全国消費者パネル調査)で対象期間を確認すると、対象商品の購買数が全国的に大幅に増加していることが確認できる。全国チェーンでなく地方であっても、地場小売りのPOSやIDPOSと、スマートテレビ視聴ログといったローカル局も分析可能な視聴データを使うことで同様の効果検証が可能である。テレビと購買の効果を明瞭に確認するには、放送された内容や商材、データの適切な取り扱いなど注意すべき点は多々あり、多少専門的な知識は必要である。ただし、最近はAI等を利用しての自動化ツールも進化しており、ハードルは下がりつつある。
テレビ局にとって購買データでしっかりと媒体価値を証明することができると、営業活動に説得力を持たせることができる。通販会社は、日常的にインフォマーシャルをローカル局でテスト出稿し、購買と紐付けて効果を確認し、全国展開に向けてクリエイティブの調整を行っている。地方でもデータやツール等の環境が整いつつある今が、エリア内の他局と差別化を進めるチャンスなのではと考えている。
