「行動ターゲティング」の分類
「行動ターゲティング」にはそのソリューション対象で大きく2つの種類に分かれます。一つが「媒体社ソリューション型」、もう一つが「広告主ソリューション型」です。「媒体社ソリューション型」は媒体社の媒体価値の向上に目的が置かれたものです。大規模サイトの場合、トップ面や特定セグメントの中面についてはクライアントニーズも高く在庫が売れ残ることはそれほどありませんが、ターゲットセグメントが不明確な広告面やユーザ投稿ページの広告面などは売れ残ってしまったり、安売りの対象になったりすることが多くあります。また、中小サイトの場合はトップ面であってもクライアントが付かないケースが見受けられます。このような、比較的価値が低いと考えられていた広告面に対してユーザの行動履歴に基づく広告配信を行うのが「媒体社ソリューション型」の行動ターゲティングです。 「媒体社ソリューション型」の代表例は博報堂系のメディアレップであるDAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム)が米行動ターゲティング広告大手のレベニューサイエンス社と独占販売契約を締結して開始した行動ターゲティング広告です。DACは2006年1月から一部の媒体社と自社の多媒体バナー広告ネットワーク「impAct」において配信実験を行い、2006年4月には日本経済新聞社の委託を受けて行動ターゲティング広告の開発、販売を行うことで合意しました。2006年8月から本格販売を始めるとのことで、その効果検証が待たれます。
また、2005年11月からDACの競合であるCCI系列のインビジブルハンド社も、自社の運営する広告ネットワーク「ADJUSTアドネットワーク」の広告商品として販売を開始しています。
「広告主ソリューション型」については、一つの広告主の大規模キャンペーンにおけるROI向上を目的としたものです。この形態では、広告主が立てたキャンペーンの媒体プランにおいて、まず複数の訴求内容・複数のクリエイティブを用意し、それぞれの媒体とクリエイティブごとにユーザがとる行動(閲覧・クリック・資料請求など)を分析します。ユーザの行動特性に顕著な違いがあった場合、その違いとなる要因をもとにユーザをグループ化し、それぞれのグループに応じて最適な広告を配信する仕組みです。例えば、ある携帯キャリアのキャンペーンで、午前中にあるIT系ニュースサイトを閲覧する人はある機種の音楽再生機能を訴求した広告への反応がよい、といったグループを発見できれば、そのグループには集中的に音楽再生機能付き携帯電話の広告を提示する、といった考え方です。
「広告主ソリューション型」の例はまだそれほど多くありませんが、2006年5月にDACの子会社であるスパイスボックス社が米エックスプラスワン社([x+1] inc, 旧ポインデクスター社)の広告主向け行動ターゲティング広告配信サービス“POE”(Progressive Optimization Engine)の日本における独占販売契約を締結して、日本初の広告主向け行動ターゲティング広告配信サービスとして提供を開始しています(注2)。
スパイスボックス社がこのサービス提供に先立ち2006年2月から3月にかけて行った大手携帯電話会社に対する試験提供において、通常配信と最適化配信の比較で32%のクリック率向上が見られ、その効果の高さが証明されています。
課題と今後
「行動ターゲティング」というと、長年インターネット広告に関わる人々の頭にはどうしてもプライバシー問題が思い浮かんでしまうところですが、今回のムーブメントにおいては各社が米DoubleClick事件の前例を鑑みて、個人情報そのものとは結びつけることなく行動履歴のみを対象として分析する形態で提供しているところがポイントです。 国内での行動ターゲティング広告はまだまだ始まったばかりの市場であり、効果検証や配信実績の蓄積はこれからと言えます。今後おそらく多くの事業者がこの領域に参入するものと思われますが、各事業者が切磋琢磨して「広告をコンテンツにする」ことの追求が進むことが期待されます。