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「取り引きしてみようかな」を逃さない――SMBC日興証券が口座収益2倍を実現できた理由とは?

2019/02/21 10:00

 2018年に創業100周年を迎えたSMBC日興証券は、一人ひとりの顧客体験(CX)の充実を図るため、非対面での応対を基本とするダイレクトチャネルの顧客に対して、早くからOne to One マーケティングを実践してきた。2018年3月には「Salesforce Marketing Cloud」を導入し、各種フォロー施策を改善。新規口座開設後の「未稼働口座」を減らすことなどに成功した。同社ダイレクトチャネル事業部に長く携わる2名のキーパーソンに取材を行った。

対面同様のコミュニケーションを非対面でも

SMBC日興証券株式会社 ダイレクトチャネル事業部長 丸山 真志氏(写真左)/SMBC日興証券株式会社 ダイレクトチャネル事業部 Eマーケティングセンター長 天宮 徹也氏(写真右)
SMBC日興証券株式会社 ダイレクトチャネル事業部長 丸山 真志氏(写真左)
SMBC日興証券株式会社 ダイレクトチャネル事業部 Eマーケティングセンター長 天宮 徹也氏(写真右)

 2018年に創業100周年を迎えたSMBC日興証券。同社の強みのひとつに、約4,000名の営業スタッフによる、「顧客一人ひとりのニーズを的確に捉え、最適なタイミングで必要な情報を届ける」という、顧客視点の対面営業がある。

 「当社が誇る、対面営業によるきめ細やかなOne to Oneマーケティングを、非対面チャネルでも実現したい」そう語るのは、同社ダイレクトチャネル事業部で部長を務める丸山 真志氏。ダイレクトチャネル事業部では、以前から、非対面チャネルにおける顧客とのコミュニケーション最適化を目的に、One to Oneマーケティングに積極的に取り組んできた。

 「6年ほど前から、非対面チャネルのお客様一人ひとりのタイミングに合わせたメール配信に取り組んできました。対面チャネルのお客様に対して営業スタッフが行ってきた、“大きな入金があったから、お礼の電話をしよう”、“誕生日をお祝いしよう”といった、お客様に喜ばれる細かなコミュニケーションを、非対面チャネルのお客様にも提供したいと考えたのです」(丸山氏)

シナリオとツールを全面的に見直しへ

 丸山氏がダイレクトチャネル事業部長に就任した2014年当時には、それまでの試行錯誤の結果、既に14シナリオを作り、動かすことに成功していた。しかし、より細やかなOne to Oneマーケティングを目指すうえで、「自前でSQLを組む限界」を感じるようになったという。

 「自前でSQLを組むなかで、2つの限界を感じるようになりました。1つ目は、現在利用しているメール配信システムではコンテンツの出し分けができないので、LINEやアプリプッシュといったチャネルの多様化に対応できないこと。2つ目には、PDCAを高速にサイクルさせてA/Bテストをやるにも、自前でSQLを組む限り、対応できるスピードに限界があることです。

 これらのボトルネックだけでなく、対面でのハイタッチレベルの対応は無理にしても、非対面チャネルでもお客様が欲するタイミングで、欲しい情報をきちんと提供していくために、シナリオとツールを全面的に見直すことを決めました」(丸山氏)

 同社が目指す「究極のOne to Oneマーケティング」を実現するためには、変化し続ける顧客のニーズに迅速に対応していくことが不可欠だった。そこで、同社は「Salesforce Marketing Cloud」(以下、Marketing Cloud)の導入を決定。2018年3月から本格運用を開始した。

 「私たちは、100年の間、総合証券会社として対面営業を通じ、証券取引に関する商品をお客様のニーズにあわせてご提供し、きめ細やかなOne to Oneマーケティングを実践してきた自負があります。非対面チャネルでもより高い理想を実現するには、2014年の14シナリオでは満足すべきではなく、Marketing Cloudを通じた非対面チャネルのシナリオ改善が必要だったのです」(丸山氏)

対面でのコミュニケーションをシナリオに落とし込む

 Marketing Cloud導入前後にダイレクトチャネル事業部が取り組んだのが、元々あったシナリオの見直しだ。顧客視点で最適なカスタマージャーニーを描き直し、現状のシナリオ総数は40に及ぶ。

カスタマージャーニーを描き、40シナリオを作成
カスタマージャーニーを描き、40シナリオを作成

 そして、この新しいシナリオ設計にも、同社の「対面営業」の経験が活かされている。

 「ダイレクトチャネル事業部には、営業店から来たスタッフもいます。今、対面営業で実現できている『きめ細やかなOne to Oneマーケティング』を非対面でも実現すべく、彼らが営業時代にお客様に対してしていたこと・経験してきたことを、シナリオに落とし込みました」(天宮氏)

 こうして生まれたシナリオには、“投資信託の取引ページを閲覧した際”や“投資信託を購入した後”にメールを送るといった「取引促進」や「カスタマーサポートの向上」などの施策が取り入れられた。

「新規口座開設直後」の施策を改善

 また、シナリオ設計において同社が特に重視したのは、「新規口座開設直後」の対応だ。ダイレクトチャネル事業部でEマーケティングセンター長を務める天宮 徹也氏は、「新規口座開設後のお客様に対して何も働きかけを行わなければ、入金も取り引きもない休眠顧客と化してしまうことが過去のデータからわかっています」と、口座開設直後のフォロー体制の重要性を説く。

 そこで、開設直後で「取り引きしてみよう」という気持ちが高まっている顧客に向けて、シナリオを描き直したという。具体的には、開設直後のタイミングで、「株主優待の調べ方とは?」「IPO投資の魅力は?」など、初めて取り引きをする顧客にとって気になる情報・次のアクションを起こしやすいメールを重点的に配信した。

1口座あたりの収益が2倍以上に

 シナリオの改善を継続して進めていった結果、初回ログイン率は大幅に上昇。Marketing Cloudを活用した新規口座開設後のメールフォロー施策によって、口座稼働率にも大きな変化が現れた。

 「2017年度の新規開設口座において、施策を『実施した口座』と『実施していない口座』で比較したところ、1口座あたりの収益が、結果的に2倍以上になりました。また1口座あたりの資産も、実施している口座のほうが7割ほど多いことがわかりました」(天宮氏)

 このように、大きな成果を出した同社の取り組みには、2つのポイントがある。1つ目は、対面営業によって培った「徹底した顧客視点」で描いたカスタマージャーニー。2つ目は、A/BテストなどのデータをもとにPDCAを重ねて、絶えず進化するシナリオだ。

 「当社では、新たなシナリオを作成する際にはトライアル期間を設けて企画やメール文面などのブラッシュアップを行っています。たとえば、“NISAの口座開設完了後のフォロー”というシナリオを作成した際には、『口座開設のお礼』や『取引方法』、『取引可能な商品』の案内を送付しましたが、それが『口座利用率』に貢献しているのかをチェックしながら、改善を繰り返しました」(丸山氏)

実際の企画書フォーマット
企画書フォーマット

 また口座開設後のシナリオを見直すなかで、新規口座開設直後の顧客から「取引サイトのログイン方法が分からない」という問い合わせを多く受けていることがわかった。そこで、ログイン方法を案内するメールに掲載している、ログイン画面の入力箇所をハイライトでわかりやすくするなど、UIを改善。その結果、問い合わせ件数の削減に成功した。

メールの改善例
メールの改善例

 「このような細かな改善への取り組みは、部内はもちろん、経営層と現場レベルでVOC(お客様の声)を共有する会議体を設けながら進めています。組織一丸となって非対面チャネルの顧客コミュニケーションの最適化を進めてきた成果が、今こうして数字として現れ始めた、そう考えています」(丸山氏)

「Community Cloud」導入で多様化したニーズに応える

 同社は今後、「Salesforce Community Cloud」(以下、Community Cloud)の導入も検討している。Community Cloudは、顧客1人ひとりとオンライン上で24時間コミュニケーションを取ることができる、オンライン・コミュニティ・プラットフォーム。

 丸山氏はCommunity Cloudによって、これまで一方的だったコミュニケーションを「双方向にしたい」と述べる。同社では、顧客にとって重要である情報を、都度電話やメール、DMなど、様々な方法で伝えている。しかし、顧客が「自分の申し込み状況を知りたい」と思うタイミングは様々だ。「支店やコールセンターに電話して確認したかったけど、営業時間外で電話できなかった」という状況も起きてしまっていたのだ。

 「現代はインターネットで完結できないサービスはありえません。当社の取り引きで担当の営業スタッフが付いているお客様もそう思っていらっしゃると思います。新たにCommunity Cloudを導入することで、多様化するお客様のニーズに応えていきたいです」(丸山氏)

 将来的には、Community Cloudによる「オンライン口座開設」や「リード獲得」などにも取り組んでいくという。「非対面チャネルを充実させることで、対面チャネルをフォローする存在となりたい」と語るダイレクトチャネル事業部。今後の新たな挑戦と、その成果に注目だ。

カスタマージャーニー研究プロジェクトチームのコメント

加藤:対面営業によって培った顧客視点の延長を非対面、つまりデジタルのカスタマージャーニーで実現する。このチャレンジにおいて、メールやLINEという複数の接点の使い分け、シナリオの構築は欠かせませんが、その根本にあるものは人対人の温かいコミュニケーションです。デジタルコミュニケーションの成功要因は、お客様に徹底的に向き合うこと。顧客視点が企業に何をもたらすかが証明されている素晴らしい取り組みだと感じます。

押久保:「対面営業で実現できている『きめ細やかなOne to Oneマーケティング』を非対面でも実現すべく、彼らが営業時代にお客様に対してしていたこと・経験してきたことを、シナリオに落とし込む」。対面営業で実現できていることを非対面でも実現するためにテクノロジーを活用するという、目的と手段の意識が明確に読み取れて素晴らしいと感じました。正しい意思決定はこうした姿勢から生まれるという学びにもなりました。今後のCommunity Cloudの取り組みについても楽しみです。

カスタマージャーニー研究プロジェクトとは?
「カスタマージャーニー」、顧客の一連のブランド体験を旅に例えた言葉。デジタルやリアルの接点が交差し、顧客の行動が複雑化する中、「真の顧客視点」に立って、マーケティングを実践する重要性が増してきました。
カスタマージャーニーに基づいたマーケティングの必要性は、その認知が進む一方で、「きちんと“顧客視点に基づいたシナリオ”を作成し、運用できている企業はまだまだ少ない」多くのマーケターに意見を聞くと、そのように認識されています。
今回、押久保率いるMarkeZine編集部とセールスフォース・ドットコム マーケティングディレクターとして、各企業とジャーニーを研究してきた加藤希尊氏を中心に、共同でカスタマージャーニー研究プロジェクトを立ち上げました。本プロジェクトでは、「顧客視点のマーケティング」における成功例を取り上げ、様々なアプローチ方法をご紹介していきます。その他の成功例はこちら
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