一般人のスコアリングとネット社会の健全化

有園:オーディエンスデータのデジタル化や一元管理が必要という話がありましたが、発展的なトピックとして、購読者情報って今の時代だと個人のスコアリングにもつながると思うんですよね。中国では、支払い状況やマナーのいい人が評価されて得をするという評価経済が始まっていますが、そのあたり、どう思われますか?
戸井:シェアリングエコノミーの世界では、取引先の信用情報を一定レベルで把握することが、重要になると思います。一方でスコアリングが、格差や差別を助長するような方向には進まないことを、個人的には願っています。
個人が同意した上で、プロファイルの一部分を提供することにより、何らかのベネフィットを得ることができるというようなレベルのスコア活用は、日本でも進むかもしれないですね。
有園:もし個人が様々な属性情報や行動情報からスコアリングされたら、たとえばAmazonのレビューなんかも「この人の口コミは信頼できる」などを判断できて、フェイクの情報やなりすましに騙されないという点でネットの健全化にもつながるんじゃないかと思うんです。
まあ、一般の人のスコアリングはちょっとセンシティブですが、少なくとも記者ならば、記事の質が皆に見える形になるのはプラスですよね。ぐるっと回って先ほどのジャーナリズムの話に通じますが、署名記事をベースに、優秀な書き手が支持を集めていく。
戸井:そうですね。様々な人が情報を発信できるデジタルの世界においては、発信者が信頼できる人物なのかどうかを判断することは重要ですね。情報発信がどんどん個人に帰属していっていると感じます。「note」を運営するピースオブケイクに日経が出資したのも、そうした流れの中で日経として個人のメディア化を支援していこうという意図があります。
情報銀行をビジネスパートナーにするには
戸井:冒頭でも少し触れましたが、メディア側は広告会社やアドテクベンダーに収益化を頼る発想を切り替えて、どうやったらサステナブルに自分たちのビジネスを展開できるか、知恵を絞らないといけないと思います。コンテンツとオーディエンスデータをしっかり自ら管理して、アクセス分析を行ってオーディエンスに常に新しいバリューを返すことを考えていくべきだろう、と。
最新の購読者管理がなされているメディア企業のデータベースは、情報銀行にとって有用性が高いため、メディア企業は情報銀行のビジネスパートナーになりえます。その際に、情報銀行経由で提供される新たなバリューがあれば、読者にとってもメリットがあります。
逆に1社でデータベースを持つのが難しい中小規模のメディアなら、情報銀行を擬似的な自社の購読者データベースとして活用したり、見込み読者リスト獲得のツールとして活用してしまうという策もあるのではないかと考えます。
有園:同時に、メーカーなどの一般企業にも、情報銀行はパートナーになりますよね。ちょうど先日、パナソニックが家電のサブスクリプションサービスを始めると発表がありましたが、仮に情報銀行と組んだ上でどんどんユーザー情報を取得し、また彼らみずからにも更新していってもらえれば、情報銀行にとってもメリットが大きい。
戸井:そうですね。大手の消費財メーカーさんですと、SNSのプラットフォームや自社のコミュニケーションサイト経由で100万人規模の会員情報を抱えていたりして、年間相当の維持費をかけているのではないでしょうか。もしかしたら、いっそ自社で抱えるのを止めて情報銀行と組んだほうがいいかもしれないですね。今年、来年あたり、情報銀行を中心にいろいろなビジネス構造が動くと思うので、引き続き追っていきたいと思います。
