デジタルマーケティングとマーケティングのデジタル化は違う
廣澤:本間さんと一つ議論したいテーマがあります。それは、デジタルマーケティング担当者に多い、アドテクノロジー信仰についてです。これまでの本間さんの話を踏まえると、誤った考えかなと思いますが、いかがですか。
本間:一番良いマーケティングとは、お客様と絶えず適切なコミュニケーションを取り続けること。その上で、デジタルが最適ならばとことん活用すべきですが、初めに技術ありきになるのは良くないですね。

お客様と絶えず適切なコミュニケーションを取るということは、マーケティングという言葉が存在しなかった時代から行われています。たとえば、江戸時代の南蛮貿易で、商人は「特別な陶器をあなただけに」とストーリーを付加してプレミアム感を醸し出すといった、マーケティングらしきことを行っていたと思います。
インダストリー4.0の時代を迎えた今、南蛮貿易で商人が行っていたことは技術を活用すれば、より多くの人に行えます。その上、売る商品自体も個別最適化して作ることができる。必要なのは、デジタルマーケティングではなく、旧来の優れたマーケティングのデジタル化なのです。
広告のあり方を再考しよう
廣澤:One to Oneマーケティングは昔からフィジカルな方法で存在し、テクノロジーの進化でより高度なことが可能になった、ということですね。では、メディアや広告のあり方については、どのようにお考えですか。
本間:ネット広告の伸長が著しいですが、そもそもインターネットはメディアではないと思うんです。たとえば、映画ビジネスは演劇などをフィルムに焼き付け、多くの方に見てもらうことが始まりでした。そこから、ローカルの話題やニュースなどを見てもらおうとテレビが誕生した。
これまでのメディアは、先に伝えたいコンテンツがあって誕生しました。一方、インターネットはコンテンツありきのスタートではありません。この成り立ちの違いを見た時に、本当にメディアと呼べるのかと思うところがあります。
廣澤:インターネットの普及と進化で動画などを含めたコンテンツがどこでも視聴できるようになり、テレビなどのあり方も見直されています。確かに、インターネットはこれまでのメディアとは少し違う立ち位置なのかもしれませんね。
また、最近では音楽フェスやスポーツ観戦などリアルイベントの盛り上がりが目立ちますが、顧客接点の多様化はマーケターとしてコミュニケーションを設計する際には悩みの種にもなっていると思います。
本間:リアルへの原点回帰が進む可能性はありますね。そうなった時、ネット広告は本当に必要なのか、テレビCMはどう活用すべきかなど、改めて考える必要が出てきそうですね。
