デジタルの役割
テレビとデジタルについて、分断の現状と融合の重要性を述べてきました。では、融合していくにあたって、何をすればよいのでしょうか。
一般的に、テレビが担う役割は認知と興味喚起、一方デジタルは生活者の興味の受け皿として商品やサービスの詳細な情報の提供、他者評価である口コミやレビューを提供することだと言われています。テレビが間接的に他者評価を発信し、デジタルで認知や興味喚起を訴求するメッセージを発信する場合も少なくありませんが、影響力として考えた場合は、やはりテレビは認知・興味喚起、デジタルで詳細情報が最も効率的でしょう。いったんこのような役割分担をした場合、テレビ側では視聴率が高い番組や、さほど視聴率がよくなくても認知されやすい時間帯へ出稿することが考えられます。
では、デジタルが検討すべきこととはどのようなことでしょうか。先にも述べましたが、認知して興味を持った生活者の受け皿になることが、デジタルが最も活躍できる役割であるとすれば、検討すべき内容はおのずと決まってきます。それは、興味を持った生活者が欲しい情報を最適な形で提供することです。
企業の商品についてテレビで知り、興味を持った生活者の手にはスマートフォンがあります。生活者は様々なキーワードを駆使し、自分が欲しい情報を収集しようと、提供される情報に満足するまで検索行動を繰り返します。企業はこの検索をしてくれる生活者に、最適な情報を提供して最終的に自社の商品を選択してもらおうと、様々な施策を実行していきますが、どのような情報を提供すればいいか、どのように提供すればいいかを悩まれているマーケターが多いように感じます。
このような悩みを解決するためには、生活者がどのように情報を収集するのかを把握した上で、自社の領域に自然に誘導していく。そして、シナリオをいくつも用意し、実行することで「生活者」から「ユーザー」へ変化させていく必要があります。
生活者がデジタルの世界で見せる行動
生活者が実際にデジタル上で情報収集を行う場合、どのような行動をとるのでしょうか。風邪薬を提供している企業のサイト訪問状況を、ログデータ(i-SSPデータ)から調べたところ、8月から10月にかけて徐々に下降していることがわかりました。一方、それらの企業が出稿している風邪薬のテレビCMへの接触率は、8月から10月にかけて大幅な上昇をみせています。風邪薬の需要期に向けてテレビCMの投下を増やすことで接触が高まっているのに、企業サイトへの訪問率は逆に下がってしまっているのです。
図表4は、10月の企業サイト訪問状況ですが、風邪薬のテレビCM約20本のうちいずれかに接触した人は、テレビCMにまったく接触していない人に比べてサイト訪問率が低い状況となっています。

テレビCMで認知や興味を喚起されたのちに、サイト訪問するというストーリーを描く担当者は多いと思いますが、今回調べた結果はそうではありませんでした。10月のサイト訪問率が比較的低いテレビCM接触者に原因がありそうなので、さらに調べたところ、どうやら検索の際に使用するキーワードに問題があることがわかりました。
耐久消費財や課題解決型の商品によく見られるのですが、生活者は自身へのリスク(高額であったり、課題が解決しないなど)が多少でもある場合、横並びの比較を目的とした検索をする傾向があります。テレビCMを観て、ブランド名で検索する人も一定数いるものの、自身が解決したい課題そのものである「風邪」「風邪薬」といったキーワードで検索する人のほうがそれ以上に多いということです(図表5)。

そして、その検索結果に生活者は接触することになりますが、現在風邪薬を提供している企業の多くは、検索結果の上位に表示されません。どのような情報が上位にくるかというと、薬に関するデータベースサイトであったり、医薬品関連の情報提供サイトなどです。このようなサイトでは、薬の詳細な情報はもちろんおすすめなども掲載されています。生活者は企業のサイトへ接触する代わりに、欲しい情報が集約されている情報提供サイトへ接触し、情報に関しては満足しているのではないでしょうか。
ここでの問題は、サイトで得たおすすめ情報や口コミ・レビューをもとに購入される場合、企業がその購入者に接触する機会がテレビCM以降まったくないということです。つまり、テレビCMに接触した後、どのような情報に接触し、自社商品に対してどのような評価を下そうとも、企業はなんのコントロールもできないということになります。
では、企業の担当者がテレビCM接触以降も生活者とコミュニケーションを取ろうとした場合、どのような方法があるのでしょうか。生活者が求めるコンテンツの用意、情報提供サイトへの情報提供など様々ですが、まずは使われている検索キーワードのような生活者の行動を把握することが大切です。今回のようなケースでは、生活者の検索キーワードでは企業のサイトは上位に表示されないのですから、まず検討すべきはSEO対策となります。次に、テレビCMの中で検索してほしい“そのブランドならではのキーワード”を訴求することも施策としては有効です。ブランドで検索されにくいのであれば、新たな検索キーワードを作りだして届ける、という発想です。これはSEO対策が難しい場合にも検討する価値がある施策となります。
テレビとデジタルの融合は、ご紹介した風邪薬の事例のような事態を未然に防ぎ、認知や興味はもちろん、以降の購入までのプロセスを生活者と伴走しゴールすることを実現させるために今後、より一層重要になってきます。また、テレビとデジタルそれぞれの役割を的確に果たしつつ融合を進めることで、各々が担うべきKPIと共通して管理すべきKPIもおのずと定まり、施策効果を正しく評価することも可能になると思われます。PDCAすべての局面において、テレビとデジタルの融合が進むことで、企業のマーケティングは初めて“既にテレビとデジタルをうまく生活に取り入れている生活者”に追いつくことができるのではないでしょうか。