オンライン→オフライン→オンラインを生み出すデジタル施策
原嶋:「デジタルを活用したカスタマージャーニー」に沿った施策とは、具体的にはどのようなものでしょうか。
奥谷:具体的には、「O to O to O(オンライン to オフライン to オンライン)」を生み出す施策に挑戦してほしいと考えています。「O to O to O」とは、YouTubeや、アプリ、キャンペーンサイトなど、オンライン上の施策をきっかけに店舗(オフライン)へ足を運んでもらい、そこで体験したことを写真などでSNS(オンライン)上に拡散してもらうような施策のことです。
たとえば前職の良品計画時代には、有楽町の無印良品の店舗を使って、クリスマス施策として、商品である「お菓子の家」を使って街を作り、ジオラマとして店内に展示。撮影をOKにして、TwitterやInstagramへ写真を投稿してもらうよう促しました。他にも、2年間無料で無印良品の家に住んでくれる人を募集したモニターキャンペーン「ぜんぶ、無印良品で暮らそう。」や、レトルトカレーの無料試食会「カレーなる無印良品キャンペーン」なども「O to O to O」の施策として実施しました。
「O to O to O」の流れが生まれるというのは、それだけ「お客様の心を動かせた」ということです。どうすればお客様に「オンラインとオフラインを行き来したい」と思ってもらえるか」この視点から、新たな施策に挑戦してほしいですね。

企業にとって意味のあるKPIを設定する
原嶋:なるほど、非常に興味深い取り組みです。KPIはどのように設定したのですか? 小売業界でチャレンジングな施策が生まれにくい要因のひとつに、デジタル施策のKPI設定ができず、社内の承認を得られないということがあると思うのですが。
奥谷:KPIは、その企業にとって意味のあるものにすることが重要です。私は、良品計画時代に「ソーシャルメディアアクティビティレポート」というものを作成して、いいねの数やリツイート数をもとに、どれくらい拡散されたかをWEB用語を使って説明していたことがありました。しかし、このやり方では、会社の上層部にはなかなかうまく伝わりませんでした。
そこで、方法を変え、いいね・リツート数を金額換算し、どれくらいのバリューを生み出しているかを算出しました。当時、無印良品ではチラシも刷っていたので、チラシ1枚にかかる印刷コストを活用してバリューを割り出しました。具体的な数字を出して、広告バリューを見せる。そうすることで、上層部にも理解しやすく、受け入れてもらいやすくなりました。
原嶋:成果を広告価値に換算すると説得力が出ますね。
奥谷:他にも、KPIの測定として私がMUJI passportリリース前によくやったのは、クーポン発券機を店舗に設置して、URLやバーコードを読み取り、来店客数をカウントする方法です。お客様には、くじ引きのような仕組みを用意し、お客様ごとに個別のバーコードを発行したメールを送りました。そのようなクーポンを発券機で発行することによって、来店人数が明確にわかります。1店舗から始め、結果が出てきたら、設置店舗を増やしていきました。この発券機の施策が今の「MUJI passport」につながっています。
いろいろな制約があると思いますが、それでも、できることはたくさんあります。小さなことから始め、結果を積み上げながら、大きな施策に広げていくことが大事なのではないでしょうか。
原嶋:「MUJI passport」も、始まりは本当に小さな施策からだったんですね。「小さく始めて、大きく広げる」、この言葉を心に刻みたいと思います。本日はありがとうございました。
