金融ツールとしての存在感を増すWeChat Pay
WeChatは2018年末にアップグレードが行われ、現在のバージョンはVer7.0となっている(2019年1月時点)。スタート画面のデザインが大きく変更を見た一方で、短編動画アプリ(TikTok)の流行を受けてなのか、個人動画を撮影しやすいようにユーザーインターフェースの最適化が行われている。そのほか、交流関係があるユーザーがお気に入りに選んだ記事を表示する機能「トップストーリー」(看一看)が加わった。
一方、以前のバージョンでは個人設定画面に「ウォレット」(銭包)と表示されていた決済機能の名称が「WeChat Pay」(微信支付)に変更されたのも目を引く。アップグレードに先駆け「零銭通」という財テク機能が新たに加わったのも、今としてみれば名称変更の伏線だった。ユーザーがこの機能をアクティブにすると「WeChat Pay」の残高が決済に使えるだけでなく、自動的に利息が加わる仕組みになっている。第三者決済で先行してきたアリババグループの「Alipay(支付宝)」が2013年にリリースした「余額宝」のコンセプトに相似したサービスである。名称変更を通してWeChatは金融ツールとしての存在感をより強く外に打ち出した形となった。
中国のスマホ決済2強のシェアが9割超え
AlipayとWeChat Payが有するユーザーはそれぞれ10億を超えると言われる。iiMedia(艾媒体)リサーチなどが発表した第三者決済市場に関するデータによると、2018年第3四半期における取引規模は43兆8,357億人民元に達し、両者だけで92.53%のシェアを占め、Appleや百度(バイドゥ)、あるいはフードデリバリーの「美団点評(メイトゥアン・ディエンピン)」※1が残るわずかなシェアを分け合う結果となっている。
ちなみにスマホ決済には「スキャンする(される)」方式と「かざす」方式があるが、WeChat PayやAlipayの決済で利用されるQRコードは前者に属する。購入者のスマホに表示される支払いコードを売り手が用意するデバイスに読み込ませるか、あるいは売り手が提示するコードを自分のスマホでスキャンして支払金額を入力するかのいずれかで決済が行われる。いまや買い物や食事、タクシーやフードデリバリー、会食の費用などの割り勘払い、はたまた結婚式の祝儀や家族への「紅包(お年玉)」、被災地への義援金の送付や寄付に至るまで現金が登場する機会はほとんどない。あらゆる支払いがQRコードのスキャンによって瞬時に完結するのだ。
ちなみに、Alipayには「芝麻信用」というユーザーの信用度を得点表示する機能がある※2。そのスコアは日頃の消費行動によって積み上げられ、点数が高ければスマホ充電器のレンタル、あるいはホテル宿泊時に求められるデポジットの支払いが免除されたり、金融商品の金利が優遇されたりするなどの特典が受けられる。その反対に支払い滞納やトラブルがあれば減点対象となり、以降はサービスを享受する上で不利益を被ることになりかねない。ユーザーが品行方正かどうかの判断が、テクノロジーを通した日頃の行動監視によって行われるというのは恐ろしいが、信用スコアの機能が近年の治安改善(スリや置き引きの減少)に好影響をもたらしているというのは誇張ではない。
※1 中国の“グループポン”と呼ばれた「美団網」と、口コミ投稿サイトの「大衆点評」が2015年に合併して誕生した企業で傘下にシェアリング自転車の「摩拜単車(モバイク、Mobike)」を持つ。近い将来、同サービスを「美団単車」と名称変更する一方、「美団」アプリをその唯一のゲートウェイとしていく方針を明らかにしている。
※2 WeChatも“信用スコア”の機能を一部の都市でテスト運営している。「微信支付分」と命名され、WeChat Payで積み上げたビッグデータはもとより、SNS上の交友関係などで導き出される信用度もスコアに反映させていくと見られているが、2019年1月現在、全国規模での展開時期については報道でも明らかにされていない。
