デジタルの知識よりも、ビジネススキルが重要な理由
次に室元氏は、「デジタル人材育成に必要な要素はなにか」に関して、サントリーで実際に導入されているスキームを紹介した。
サントリーでは「デジタル人材育成に必要な要素」を、「デジタルスキル」と「ビジネススキル」に分類。室元氏は「元来アナログだった会社では特に、ビジネススキルの有無が成果を大きく左右する」と考えている。
その理由には、デジタル施策は社内調整の負荷が高く、手間がかかることが挙げられる。長い歴史の中でノウハウが確立されているマス領域に対し、デジタル領域はまだ歴史が浅く、業務フローが確立されていない。SNSの運用ひとつとっても、代理店にすべて任せるというわけにはいかず、細かい確認やカスタマイズが必要になる。だからこそ効率的に業務を進める能力が欠かせないのだ。
また、デジタル領域に明るくないブランドマネージャーや営業部門と一緒に仕事を進めていくためには、ツールの仕組みや使い方を説明する必要が生じる。工数のかかるこの部分において、プレゼンテーションやディレクションのスキルが物を言うのだという。
デジタル人材に必要な4つのスキル要素
続いて室元氏は、デジタルスキルを「共通」と「職種別」、ビジネススキルを「ベーシック」と「アドバンス」に細分化した、4つのスキル要素を紹介した。

まず、「デジタル共通スキル」とは、単独で業務を行えるレベルを目標とした基礎領域。手法やツールには一切触れず、デジタルで成果を上げるための基本フレームワークだけを教える。それ以外には、効果測定の手法や高速PDCAの回し方、相手の話を理解するための最低限のデジタル知識を習得してもらうそうだ。
「デジタルアドバンススキル」においては、その部署ならではの専門性を活かして、成果を挙げられる段階への到達を目指す。たとえば、SEOやリスティング、インフルエンサーマーケティング、データドリブンマーケティングなどの理解や実践が該当する。
一方、「ビジネス基本スキル」では、部署内・他部門に実行しようとしていることを端的に説明し、協働していくための能力をインプット。プレゼンテーションや進捗管理といった最低限の要素を教えていく。
そして、室元氏が最も重要と強調する「ビジネスアドバンススキル」は、ブランドや営業の課題を掘り下げて明確化し、共通理解にして、ステークホルダー間の方向性を揃えていくのが目標だ。デジタル人材にも、プランナーやコンサルタントのような役割が求められているのである。
課題を見極め、非デジタル部門とのギャップを解消
室元氏は、ビジネススキルを重視する理由についてもう一歩踏み込み、アナログ思考をもつ事業・営業部門とデジタル部門とのギャップについて言及した。
デジタル部門にはたびたび、「デジタルでコストパフォーマンスの良いキャンペーンを展開したい」「得意先に合わせてデジタルでなにか提案したい」といった相談が寄せられる。これらは「デジタルありき」の相談になっており、なにを解決したいのかが明確化されていない。
だからこそデジタル人材には、ロジカルシンキングを通じて課題を見極め、ファシリテーション力を駆使して、社内へ課題と解決策を提示していくことが求められる。
室元氏は「デジタルの『How』よりブランド・営業課題の『What』を見極める力が大事。この『課題を見極める力』なくして成功はないと感じています」と、ビジネススキルの重要性を強調した。

なお、室元氏が定義した4つのスキルには、さらにレベル1(知識がある)からレベル3(人に教えられる)の階層が設けられており、各自が目標を定めて、スキルアップを目指せる仕組みになっている。
室元氏は、サントリーで実施している研修に関しても、受講者に改善ポイントを挙げてもらいPDCAを回して内容をブラッシュアップしていると明かした。