数字偏重のマーケティングが起こす弊害とは
もう1つのセッション「数字だけで広告を考えて大丈夫? ユーザー行動から考える、マーケティングの本質」では、以下4名が「数字だけを見て広告を考える」ことに対して議論を行った。

画像左上:株式会社フリークアウト 澤田 洋平氏(モデレーター)
同社でメディアの収益化プロダクトの営業責任者を務める。
画像右上:株式会社サイバーエージェント 羽片 一人氏
同社のインターネット広告事業本部統括 兼 データビジネス責任者を兼任。
画像左下:キリン株式会社 高柳 裕行氏
現在「グランドキリン」をはじめとしたクラフトビールの様々なプロモーションを担当。
画像右下:株式会社FLUX 平田 慎乃輔氏
ヘッダービディングを中心にメディアマネタイズのサポート、プロダクト開発/販売を行う。
セッションの冒頭「依頼されて出した自社のシミュレーションと他社のシミュレーションのCPCが同じなのに、受注したりしなかったりする。メディアでもPV至上主義が根強くて、この数字だけ見ている現状に危機感を感じる」と語った澤田氏。それに対し、羽片氏が数字を見るメリットと、数字だけを見ていることで起きている問題を挙げた。
「デジタルマーケティングの一番の良さは数字で可視化して運用できるところ。その一方で、数字しか見えていない人が多くいるのも事実です。エクセル上のメディアプランでしか物事を判断しないのは問題があります。消費者を動かすために広告を出稿していることを、忘れてはいけないと思います」(羽片氏)
広告主の立場であるキリンの高柳氏も、羽片氏の意見に同意し広告主が陥りがちなあるあるを話した。
「消費者を動かすのが本来の目的なのに、上司に説明するためには数字が必要だからと数字ばかりに目が行くケースは多い。KPIって便利な言葉で、それを達成していれば良かったと落ち着いてしまう打ち合わせもときどきあります。本来は沢山のお客様に喜んでもらいたい、製品を知ってもらいたいはずなのに、デジタルになった途端に数字偏重になるのは危険だと思います」(高柳氏)
一方、メディアのマネタイズ支援を行う平田氏も目の前の数字や収益化だけ考えてしまうメディアも多いことに問題視していた。
「一部のメディアで短期的に儲かるような動きを進めてしまっているところはあると思います。オーバレイ広告の視聴完了率が高いのは当たり前で、それを消費者がどのように見ているのかを意識することがメディアにも求められていると思います」(平田氏)
今後求められるのは浸透圧
広告主、広告代理店、メディアそれぞれの立場から見て、数字偏重のマーケティングには問題があるという認識はあるようだ。では、数字と上手く向き合いながら、正しく広告を評価するためにはどうするべきなのか。この問いに対する1つの答えを提案したのは羽片氏だった。
「CPMやCPCなどの単価だけ見たメディアプランだと、どの代理店でも変わらないしただの数字の羅列にしか過ぎません。そうではなく、どれくらいの濃度でその人に情報が伝わったかという浸透圧をKPI化していきたいと考えています」(羽片氏)
さらに羽片氏は、この浸透圧を高めていくにはプラットフォーマー上に広告を出稿するだけでなく、各分野に特化したバーティカルメディアなど、魂を込めてコンテンツを作っているメディアにも出稿していくべきとした。
高柳氏もこれに対して同意し、自社で上手くいった案件を引き合いに出して今後メディアに求められる出稿の仕方について明らかにした。
「上手くいったケースだと、自社の商材やプロモーションするためのメッセージ、コンテンツがメディアネイティブで、読者に伝わる設計になっていました。メディアを広告枠として捉えているだけだと、数字を達成したかどうかしか説明できず、その結果『デジタル広告ってどうなの?』と変な見られ方をして、いろんな人が不幸になる。だからこそ、メディアに合わせた設計は非常に重要だと思います」(高柳氏)
最後に澤田氏が各パネリストへのまとめを求めたところ、羽片氏が語った一言が会場の参加者の共感を呼んだ。
「今後は血の通ったプランニングが必要です。広告は投資で、人が動かないと意味がない。プラットフォーム・ネットワーク・単体メディア、それぞれ活用の目的が違うと思うので、上手く活用してユーザーに伝わる体験・経験作りに努めたい」(羽片氏)
今回の両セッションはともに、「人」としっかり向き合うことが重要だという、当たり前なのに忘れかけていたことを再認識させてくれるものだった。
ブリーフィング用の資料と向き合うだけでは、社内外に伝わるブリーフィングをすることはできないし、広告出稿プランの書かれたエクセルとにらめっこしているだけでは、その先にいる消費者に届くコミュニケーションを考えられない。
目の前の作業に追われている状況下でも、一旦落ち着いて社内外の人、消費者と向き合う目線を持つことが、今の若手マーケターには求められているのではないだろうか。