リブランディングで変えていいもの、いけないもの
富永:リブランディングというと、90年代に起こったCIブームが思い出されます。ロゴが大事だ、スローガンが大事だと言って、それらをそっくり変えることがリブランディングというような定義が広がりました。当然それは間違っていて、ビジネスがうまくいかないなら、ブランドの決めごとに一度立ち返ってレビューするべきです。そしてペルソナが古くなっていたら現代の顧客に合わせて再設計するとか、それに合うようにロゴを作り替える、それがリブランディングです。

一方で、どんなにブランド価値規定を厳密に守っているつもりでも、松長さんが“磨き続ける”とおっしゃったように、少しずつ新しいことをしていますよね。だから、何かしらブランドを変容させるマーケティングや商品開発は“プチリブランディング”とも言えるのかもしれません。その中で、非連続的で変化の振れ幅が大きいのがリブランディングだという言い方もできます。
山口:ロゴや名前を変えることがリブランディングと思われている、というのは同感です。同時に、それをマス広告で告知しなければいけない、という誤解もセットになっていると思います。
小売流通のプライベートブランドが増えて店頭の棚がますます取りにくくなり、広告費を投じて新ブランドの認知をゼロから獲得することをリスキーに感じる会社も増えているので、コンサルティング会社への「リブランディングしたい」という要望自体はひと昔前よりも大幅に増えたと思います。名前を変えるだけでは売れないというお話も挙がりましたが、松長さんはご自身がリブランディングを実行して、どんなことを感じられていますか?
松長:安易にロゴを変えることもそうですが、ポジションを変えることも、私は違うなと思っています。“リ”が付くからには、今のポジションのままで価値が上がるのが成功だと思っているので、根本的にブランドを立て直すならポジションの変更はメインの議論にはなりません。そこを混同しないように、といつも思っています。
富永氏の“キャラ変”にヒントが!?
山口:富永さんは、何かご自身の経験から得たポイントなどはありますか?
富永:先ほど広告の話が出ましたが、広告とは「私はこういう人ですよ」と大声で言って回ることですよね。言っていることと行動がちぐはぐだと、信頼もブランドも築けません、企業でも人でも。私個人の話になりますが、30歳ごろのあるできごとを境にキャラを変えたんです。正論をぶちかます“なんちゃってキレキレ”キャラから、もう少し緩いキャラにリブランディングしたら、仕事がうまくいくようになりました。
山口:“なんちゃってキレキレ”だったんですか。
富永:論理的なことが偉いと思っていて、それでこの顔で圧も強いので(笑)、イヤな奴でした。ある他社とのプロジェクトを進めるとき、相手方の部長さんがまったく私の意見を聞き入れてくれず、めずらしく弱気になっていたら上司に声をかけられて、つい愚痴ったんです。そうしたら「それは大変ですね。ところで富永さん、彼の靴はお舐めになったんですか?」と。それは当時の自分にとって、とてもショッキングな一言でした。
上司は見抜いていたんですね、たいして賢くもないのに正しさをひけらかす私の浅さを。そんなことより、まず相手の懐に入ることが大事だと教えてもらいました。そこから嫌みなキャラを止めて、意識的に緩いほうへ自分自身のブランドアーキテクチャーを変えたんです。
山口:そんな経緯があったんですね……。私もブランディング支援の業務をしていると、一貫した印象を残すこととマーケットの変化に対応して変えていくことのさじ加減が非常に難しいと感じています。そのバランスについて、どう捉えていますか?
松長:どのブランドでも、チームでまず「変えてはいけない点は何か」を徹底的に議論しますね。
