ブランドは意識せずともできあがるもの
山口:今回は、数々のブランドを担当されてきたお二方をゲストに、リブランディングをテーマにお話をうかがっていきます。本題であるリブランディングの話に入る前に、まず「ブランドとは何か」について意見をうかがえればと思います。それぞれ、どのように捉えられていますか?
松長:ブランドには、2つ捉え方があると考えています。ひとつは社内におけるブランドです。これは、日清シスコでは主に「ブランド=商品そのもの」と捉えていて、私も同じ考えです。それを磨き続けることがブランディングであり、その姿勢がすごく大事だと考えています。
もうひとつは社外、つまりお客様にとってのブランドです。そこには「プロミス」と「イメージ」の2つの大きな要素があると整理しています。何を提供するのかという約束ごとと、そして印象ですね、この2つをどうコントロールするかを日々考えながら仕事をしています。
山口:インナーと対お客様という2つの側面があるんですね。富永さんはいかがですか?
富永:ブランドやブランディングの本には、よくフレームワークが載っていますね。ブランドのコアバリューやペルソナなどを定めて、ブランドの価値を規定し、それに基づいて発信していくと結果的に顧客から見るブランドメッセージが一貫したものとなり、次第にイメージができあがります。それがブランディングだ、という説明ができるので、ブランディングとは事業会社が行う意志をもった活動であり、同時にブランドは顧客の心の中にあるもの、という関係が成立します。ただ、事業会社が「ブランディングしよう」と意識しなくても、どんな商品にも何らかのイメージはできてしまうんですね。
なので、ブランドとは顧客の心の中にある商品のイメージやアトリビュート(属性)などの集合体であり、何もしなくてもできあがるもの。その上で、企業側がブランディング活動を行うと、行わないよりは意図した形になったり精度が高まったりする、と考えています。
3年がかりの再構築で売上130%増
山口:集合体、というのは腑に落ちます。私もブランディングについて説明するとき、よく「知覚された価値」の総合だと話すことがあります。ブランドロゴやCMのサウンドのような五感で識別できる記号要素と、商品・サービスや口コミなどの体験で蓄積した頭の中で知覚された価値が結びつくと、ブランドとして成り立っていくのかなと。「白い犬」という識別記号からソフトバンクやそのイメージを連想できるのはブランドが成立していると言えますね。
富永:山口さんがおっしゃる通り、ロゴやサウンドロゴ、色、形、香りで想起されることもあるでしょう。たとえばもし我々3人がヘリウムガスで声を変えても、家族であれば日ごろの話し方やスピードで識別できると思います。我々も、普段から無意識にブランディングしていると言えますね。これは人に限った話ではなく企業でも同じで、ブランドは意識せずとも成り立っているのです。
山口:では、リブランディングという本題に入っていきたいと思います。松長さんは菓子商品のリブランディングを何度かご経験されていますが、リブランディングに対するお考えと、直近のココナッツサブレの事例について教えてください。
松長:前提として、リブランディングに踏み切るのは、現状が厳しいときが多いと思います。すごく好調なときに計画することもあるかもしれませんが、このままだと生き残れないときに実行される印象です。
リブランディング前のココナッツサブレもそうでしたし、そもそもロングセラーブランドが売上を伸ばすのは簡単ではありません。そこで2015年から3年がかりで、「イメージ・利便性・オケージョン」をそれぞれ変えることで、リブランディングの施策を実施しました。結果として、2019年には対前年比で売上を130%成長させることができました。
先ほど、商品を磨き続けることがブランディング、とお話ししましたが、小さな改善は常に実行しているので、意図的に大きな変化を起こすのがリブランディングだと考えています。ロゴやネーミングを変えるのは、菓子業界でも一時期流行りましたが、売れたためしがありませんでした。