フェイスブック ジャパン株式会社 マーケティングサイエンス日本統括 執行役員 中村 淳一氏
P&Gを経て、2017年にフェイスブック ジャパン入社。データサイエンスや脳科学などを通じてFacebook/Instagramのユーザーインサイト解明や、企業のマーケティングにおける課題解決、広告パフォーマンスの向上を支援している。
株式会社電通 電通メディアイノベーションラボ 主任研究員 天野 彬氏
東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。2012年電通入社。マーケティング部門、新規事業開発部門を経て、現職。著書に『シェアしたがる心理~SNSの情報環境を読み解く7つの視点~』(2017年、宣伝会議)など。
「みんなの今を知りたい」男性にも浸透
誤解その1:Instagramは、若年女性が暇なときに見ているSNS
――前回は、Instagramマーケティングの最新動向を事例とともに学びました。今回は、ユーザーインサイトに関する3つの誤解を解消していきたいと思います。さっそく、1つ目の誤解について、Instagramは女性向けのSNSなのでは? というイメージをもっている方もいらっしゃいます。現在の利用者層に関して、お聞かせいただけますか。
中村:直近の調査データから、利用者数の伸び率は男女でほぼ同等であることがわかっています。利用者の割合を見ても、男性が43%を占めている状況です。天野さんは、男性の利用に関して調査されたことはありますか。
天野:男性がどのような写真を投稿しているかを調べるために、機械学習の手法で分類してみたことがあります。若い世代は友達と参加したイベントなど、社交的なシーンを投稿している方が目立ちました。一方で30~40代だと、お子様やペット、出かけた先の景色を一眼レフなどで撮影し、クオリティの高い写真を投稿するケースが見られました。
総じて男性は、風景や食べ物などテーマ性を持った写真を中心に投稿しているようです。ただ投稿内容に関する男女の差異は、徐々になくなってきていると思います。
中村:弊社では、定性調査で「あなたにとってのInstagramを表す写真を持ってきてください」とリクエストしたことがありました。
すると女性からは、雑誌や美術館の写真が多く挙げられました。写真の美しさからInstagramらしさを連想されたのだと思います。中には代官山の蔦屋書店、それもカフェのある空間を切り取った写真を持ってこられた方もいました。単に綺麗なだけでなく、リラックス感を表す写真が見られたことが特徴でしたね。
一方男性では、学校の教室の写真を挙げた方がいました。若年層の男性にとっては「自分の友人が何をしているのか」を知るツールとして、Instagramを使っているケースが多かったのです。また、父親世代の男性には子供の成長日記をイメージしている方が複数いらっしゃって、「子供のかわいらしい瞬間を思わず動画で撮ってストーリーズにあげてしまう」という話も聞かれました。
最初に若年層の女性から火が付いたSNSということもあり、男性がどのように使っているのかイメージしづらい部分があると思いますが、若年層は「今を知る」、もう少し上の世代は「一瞬を切り取る」という側面を重視しているといえそうです。
――ユーザー層の広がりに応じて、Instagramを使うタイミングにも変化が生じているのでしょうか。
中村:1日の利用状況をグラフ化してみると、Instagramは昼夜問わず使われているのだということが見えてきました。また、利用者の5人に1人が、目覚めた瞬間にフィードやストーリーズをチェックしているという調査結果もあります。
インサイトを調査したときに感じたのは、Instagramは他のSNSやメディアと比べて、好きな人やモノの写真に囲まれており、ポジティブで元気になれる要素が詰まっているということです。そのため、朝起きてまずInstagramを見て、気分を上げる方がいらっしゃるのでしょう。
また、朝や昼はサッと閲覧できるストーリーズをよく見て、まとまった時間が出てくる夜は、フィードを見るという傾向があります。
天野:起床後すぐに、コメントやDMをチェックする方も多いようです。Instagramはこれまでも、情報収集やコミュニケーションの場として使われてきましたが、ストーリーズが実装されてから、みんなの「今」を確認するためのツールという色彩が強まってきたと感じます。このことも、朝いちばんに確認するという行動につながっているのだと思います。
中村:驚いたのは、朝の時間帯でも広告に対して反応が良かったことです。広告って朝の忙しい時間には見てもらえないのでは? と思っていたのですが、広告であっても気になるものは保存して、後からじっくり確認するという方もいました。