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イベントレポート

CXに全力注ぐ、小田急、JapanTaxi、トヨタ 生活者の「移動のハードル」解消が未来を創る

あえてドライバーよりも生活者と向き合うトヨタ未来プロジェクト室

トヨタ自動車 未来プロジェクト室 室長代理 天野成章氏
トヨタ自動車 未来プロジェクト室 室長代理 天野成章氏

 次にマイクをとったトヨタ自動車 未来プロジェクト室の天野氏は、モビリティの一大転換期にあたって「移動したくない」を減らして「もっと移動したくなる未来」を生み出すことがミッションだと解説。「トヨタの車に乗ってくださるお客様だけではなく、生活者の視点で移動について捉え直すことを大切にしています」とCXを中心にすえるスタンスを強調した。

 「生活者視点」に立ち「共創主義」で「自ら試すこと」を重視している未来プロジェクト室では、福岡市内で「my route」というMaaS実証実験を行っている。

 福岡市での実験にあたって西日本鉄道をパートナーに迎え、JapanTaxiやシェアサイクルサービスを提供するメルカリ、駐車場予約アプリのakippaなど複数のサービス事業者とも連携。「人がもっと楽しく移動できると、まちはきっと魅力的になる」をタグラインに、移動したくなる環境づくりですべての人の移動の自由と、ずっと賑わうまちづくりに貢献していきたいとしている。

 2018の11月から2019年の8月末にかけて実験を進め、公共交通のみならず、街に存在する様々な移動手段を組み合わせた「マルチモーダル」でのルート提案を行う。提案されるルートには、自家用車で駅やバス停近くまで移動し、akippaで予約し駐車場に駐車してから公共交通機関を利用する「パーク&ライド」の他、途中まで電車で移動し駅からはメルカリの「メルチャリ」によるシェアサイクルを組み合わせるといったものも含まれる。

 西日本鉄道と連携して、福岡市内を走る路線バスに1日何度でも乗車できる「福岡市内1日フリー乗車券」を大人900円で提供し、アプリ内で決済できるようにしたのも利用者から好評を集めている。

 最適な移動手段を幅広く提案するだけでなく、店舗・イベント情報を出して、移動したいという気持ちを促進する施策についても力を入れている。

 店舗情報は、アクトインディが提供する子供とのお出かけ情報サイト「いこーよ」やアソビューによるレジャーや遊び情報の「asoview!」に加え、地元の情報サイト「Nasse福岡」「天神サイト」や福岡市の公式シティガイド「よかなび」と組むことで地元のいい店を紹介して地元住民の親近感を得ることに注力している。

 実際に利用者からは、予定外のスポットやイベントを発見したとか、普段のルートとは違う便利なバスルートを発見した、サイクルシェアを使うきっかけになったといった好意的なレビューを得ることができているという。

 トヨタ自動車としては福岡を皮切りにスピーディに他都市でも仲間作りを進め、サービス展開をしたいと考えている。そのためにもまずは福岡でサービスを鍛えることに集中しつつ、まずはサービスエリアを広げることに集中し、将来のグローバル展開をも見据える。

移動という普遍的な欲求をかなえる鍵は事業者間の連携に

 三者の発表の次には、MaaS Tech Japanの日高氏がモデレータとなってディスカッションが繰り広げられた。

 小田急電鉄の西村氏が、トヨタ自動車のmy routeに生活者視点が徹底されていることに共感を示すと、継続的なサービスを展開できるか否かで、最も重要な要素は、地域の方から支持されるサービスであるかだとトヨタ自動車の天野氏はコメント。未来プロジェクト室では「お客様視点」というワードはNGにして、「生活者視点」という言葉を用いていることを明らかにした。トヨタ車に乗っているユーザーと向き合う中での成功体験から意識的に距離をとることでイノベーションを促進させる意気込みを見せた。

 日高氏が「5~10年先の未来にどのようなモビリティサービスを実現したいか」という問いを投げかけると、JapanTaxiの岩田氏は、地方都市における移動弱者をなくしたいとコメント。地方では輸送機関がビジネスとして成立しにくい中、持続可能なモデルを様々な会社と作り上げていきたいと抱負を語り、5Gでの大容量通信でタクシーからリアルタイムに得られるビッグデータを活かしたまちづくりにも言及した。

 西村氏は「もはや車なのか電車なのかという問題ではない」としつつ、都市開発にも携わる企業グループとして、新しいモビリティが出てきたときに都市構造はどのように変化するべきかを考えていきたいとコメント。

 天野氏も「次世代モビリティはまちづくりそのものになる」とし、スマートシティといっても都市部と過疎地域では状況が異なることを指摘。移動手段を決めるのはユーザーで、それぞれの町に適したモビリティが存在するという前提ですべての人の移動の自由とずっと賑わうまちづくりに貢献したいとした。

 締めくくりとして日高氏が他企業とのパートナーシップについて聞くと、岩田氏は生活者へのUXをさらに高めるために貪欲に提携相手を探す意向を表し、旅行会社や航空会社を例に挙げた。

 天野氏は「移動×◯◯」の組み合わせは無限にあるので、パートナーシップの可能性も大きいとコメント。「移動したい」という普遍的な欲求のボタンを押せるかどうかは、モビリティ企業の連携にかかっているという見解を示した。

 西村氏は、街の個性や特徴を活かした職・住・商・学・遊のシーンづくりを切り口に、グループ内での囲い込みにとどまらず、多様な接点における連携の拡大にも意識的に取り組んでいきたいと語った。

 パネルディスカッションを通じて、歴史を持つ大企業である小田急電鉄・トヨタ自動車がともに、自社グループ内に閉じずに生活者と向き合う姿勢を強め、「移動総量」(天野氏)の拡大を通じて活路を開こうとしていることが印象に残った。大量のデータを駆使し、配車・決済・広告まで事業領域を広げているJapanTaxiもUXを最重要テーマとして掲げており、顧客体験へフォーカスすることがビジネス革新のための基本的条件だという共通認識がうきぼりになるセッションだった。

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この記事の著者

江川 守彦(編集部)(エガワ モリヒコ)

東京大学文学部を卒業後、総合広告代理店でマスメディアの媒体営業業務を経験し、出版社に転じて人文系の書籍編集に従事したのち、MarkeZine編集部に参画。2018年よりオーガナイザーとしてMarkeZine Dayの企画にも携わる。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/05/31 08:00 https://markezine.jp/article/detail/31120

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