「解約しやすい仕組み」を通じてスピーディな改善を実現

西井:解約率の改善には、どのように取り組んできたのでしょうか。
宮田:実は、リリース初期はあえて月額プランを提供し、解約しやすい仕組みにしていました。実際に解約された方に、「なぜ解約したのですか」と聞きにいくためです。皆さん意外と教えてくれるので、その理由をつぶしていくことでサービスの質を上げていきました。年間契約にすると、1年経たないと解約の原因がわからず、スピーディな改善ができないと考えたのです。
最初の1年間の月次解約率は、SaaSで許容ラインとされる2%を少し超えていたため、とにかくこれを下げることに注力していました。現在は7割が年間契約で、解約ボタンもわかりやすい場所に置いているのですが、解約率は0.5%とかなり低く抑えられています。
西井:一番多い解約理由は、どんなことなのでしょうか。
宮田:やはり、使いこなせていないから解約するというものです。現在は、カスタマーサクセスのチームで、お客様の利用状況を可視化できるツールを導入しています。
これにより、たとえば契約したばかりのお客様を抽出し、こちらからサポートするといったこともできています。
「許可より謝罪」が成せるスピード感 SmartHRの現場に任せる経営
西井:取材を通じて、SaaSは様々な指標が存在するシステマティックな世界だなと感じています。
宮田:SaaSは、メトリクスがノウハウとして共有されているのです。特に海外ではその傾向が強く、「カスタマーサクセスの人員は、ARRいくらごとに何人必要か」といった参考になる指標や細かい成功事例が多く挙げられています。サイエンスされているビジネス領域ですね。
一方で、教科書通りだけではうまくいきません。ベストプラクティスを把握しつつも、オリジナリティを出していく。もちろん失敗することもありますが、社内では、「許可より謝罪」という言葉をよく使っています。許可を求めて時間をムダにするよりも、とりあえずやってみて、ミスしたら謝ろうというマインドです。
西井: SmartHRのスピーディな成長には、組織風土も大きく関係していそうです。
宮田:会社の組織作りのベースに「価値観が同じで、皆が同じ情報をもっていれば、同じ意思決定をするはずだ」という考え方があります。そのため、従来であれば、経営陣しか知らないような情報も公開して、現場の意思決定に任せています。マーケティングチームは、会社の口座残高も把握していますよ(笑)。
今でこそスタートアップもテレビCMに投資するようになりましたが、SmartHRはかなり早い段階でテレビCMの放映に踏み切りました。最近のテレビCMでも2億円ほど投資していますが、すべて現場のマーケティングチームが判断しています。失敗にも「ナイストライ!」と声をかける企業文化で、マーケターにとっても働きやすい環境ではないでしょうか。
西井:最後に、今後の展望を教えてください。
宮田:大企業からのニーズが高まっており、十万名規模のお客様にも導入が決まっています。そうしたお客様でも利用しやすいような機能の追加や使い心地の向上を進めるとともに、お客様の利用状況をモニタリングしながらの最適なカスタマーサクセス体制の構築や、地方展開にも本腰を入れ始めています。
また、「SmartHR_ID」という構想もあります。企業ではなく個人がアカウントを管理することで、SmartHRを導入している企業間での情報の共有をより効率的に行えるようにする仕組みです。ご利用いただいている企業が増えているからこそ実現できる仕組みですし、社会のインフラにもなると考えています。「HRをしっかりと運営していくなら、SmartHR一択だね」と言われる状態まで、成長させていきたいです。