多様化した人々の脳に、適切なブランド認知を行わせるには?
ブランドがまったく同じメッセージを発信したとしても、人はパターン認識を基本とするため、フレーミング効果に陥りやすく、かつ文脈によって「わからなかった」り、「わかった(つもり)」になる可能性があります。そのため、ブランドの発するメッセージがまったく異なる形で受け取られる確率は非常に高いと言えるでしょう。 かつてのように、ブランドの数が少なく、ブランド内の製品バリエーションも少なく、多くの人が同じテレビ番組を見た時代であれば、同じメッセージが同じように受け取られる確率はもっと大きかったのではないかと想像できます。しかし、現在のように、製品そのものの選択肢も大きく広がり、ブランドも無数に存在していて、かつコミュニケーション媒体もかつてのようにマス・メディアだけに限定されず、Webもあれば、ゲームもあるし、テレビ・チャンネルの選択肢も大きく膨らんだ状況では事情が違います。これまでのようにテレビCM中心のショート・メッセージで期待するブランド連想を、それぞれ異なる文脈、異なるパターン認識の蓄積を持った消費者に対して認知してもらうことは、かなり難しくなったと言えるでしょう。
しかし、このことで「テレビCMがブランディングには適さなくなった」という判断するのは早すぎます。「テレビがダメだからWebでブランディングしましょう」という話ではないのです。Webであっても、これまで同様にイメージ重視の訴求に終始していたら同じことです。単に露出を増やすために、テレビ以外の媒体でもコミュニケーションを行えばいいという単純な話ではありません。
問題は、生活スタイルが多様化し、日々の生活で触れる媒体も同じく多様化した人々に対して、どうすればそれぞれの人が持つ文脈に適したコミュニケーションを行うことが可能で、かつそれが適切なブランド認知につなげられるかということです。
多様化する時代のマーケティングの4つの「P」
この多様化の問題は難しく、明確な解をすぐに示すことはできません。しかし、多様化する文脈に対しては、やはり多様なコミュニケーションで対応することが有効であるということはできると思います。
実際、多様化する消費者のニーズに対して、製品レベルではマス・カスタマイゼーションや製品バリエーションを多様化することで対応してきたのが、現在のマーケティングのひとつの主流です。それにあわせて、価格においても、販売チャネルに関しても同様に、多様化するニーズに対しては、多様な選択肢を用意することで対応してきたと思います。
マーケティングには、「4P」と呼ばれる以下の要素があります。
- プロダクト(Product)
- プライス(Price)
- プレイス(Place)
- プロモーション(Promotion)
「プロダクト」「プライス」「プレイス」の3つの「P」は、多様化するニーズに対して多様化により応じてきました。しかし、残りのもうひとつの「P」である「プロモーション」に関しては、コミュニケーション・チャネルを多様化する意味では同じ方向性を示したものの、そこで発信されるメッセージが多様化した人々の文脈をカバーできるほど、多様性をもって対応できたかというとクエスチョンマークがつきます。
製品、価格、販売チャネルなどは多様なニーズに合うよう、多様なバリエーションが用意されているにもかかわらず、コミュニケーション部分だけが昔ながらのブランディングの教義に従って、必要以上に「一貫性」を重視した、つまり多様性を欠いたものであるのは不思議です。そこだけ何か時代に取り残されているような印象さえ受けます。
とはいえ、すべてのマーケティング・コミュニケーションが多様化に対応できなかったかというとそうではないと思います。市場の多様な文脈に対応した例としてあげられるのが、ビジネスブログを使ったマーケティングに積極的に乗り出した中小規模の企業ではないでしょうか。そうした企業はもしかすると、これまでのテレビCM中心のコミュニケーションを知らなかった分、ブログマーケティングにすんなり入っていけたのかもしれません。