文脈=フレームによって認知は異なる
同じことは文章読解の際にも見られます。西林克彦氏は著書『わかったつもり 読解力がつかない本当の原因』の中で、認知心理学におけるスキーマ(私たちの中にすでに存在しているひとまとまりの知識)や文脈(物事・情報などが埋めこまれている背景・状況)、活性化(全体の知識の一部分にスポットライトを当てて使えるようにすること)というモデルを用いて、「わからない」「わかった(つもり)」「よりわかる」という状態を説明しています。
「わからない」という状態は、文章に書かれた文脈が自分のスキーマと結びつかない状態で、文脈による活性化が既存のスキーマに働いていない状態です。そこに、ある文脈が追加されることで手持ちのスキーマが活性化されると「わかった」という状態になります。しかし、「わかった」という状態は同時に「わからない」と感じていることがない状態でもあり、それゆえ、それ以上の読解の意欲が働かないため、本当はより深い理解が得られる余地が残された場合でも「わかった(つもり)」になってしまうということです。
文脈の交換によって、新しい意味が引き出せるということは、その文脈を使わなければ、私たちにはその意味が見えなかっただろうということです。すなわち、私たちには、私たちが気に留め、それを使って積極的に問うたことしか見えないのです。それ以外のことは、「見えていない」とも思わないのです。
西林克彦 著『わかったつもり 読解力がつかない本当の原因』

認知心理学的テーマに取り組みながら、経済学的問題を扱う行動経済学という分野においても同様の研究は進められていて、カーネマンとトヴェルスキーによってフレーミング効果というものがあることもわかっています。
フレーミング効果とは、人が質問に答えるとき、一般的に人間の意思決定は質問のされ方によって大きく変わるというものです。その質問の表現方法を、判断や選択にとっての「フレーム」と呼び、異なるフレームにより異なる判断や選択が導かれる現象を「フレーミング効果」と定義しています。

つまり、先の「わかった(つもり)」の例での「文脈」は、フレーミング効果における「フレーム」と同様のものと言うことができると思います。
