他社との競争より市場の盛り上げを
MarkeZine編集部(以下、MZ):まず、水谷さんと関さんの現在の担当業務をそれぞれご紹介いただけますか。
水谷:私は17 Media Japanでライブ配信アプリ「17 Live(イチナナライブ)」のマーケティングマネージャーを務めています。PRからデジタルマーケティング、マス広告まで、生活者とのコミュニケーションに関わる領域はすべて担当しています。
関:私はマテリアルというPR会社で、主に2つの役割を担っています。1つはゼネラルマネージャーとして、自社の経営に対してコミットメントする役割。もう1つは、エグゼクティブ・ストーリーテラーとして、ブランドと社会が手を握るまでのストーリーを設計し、その企画が目指すゴールに行きつくまで導き続ける、脚本家のような役割。カンヌライオンズをはじめ、これまで国内外の100以上のアワードを受賞しました。「17 Live」のキャンペーンに関しては、企画段階からサポートに入っています。
MZ:マーケターの間では、ライブコマースをはじめライブ配信に対する期待が高まっているのですが、世の中的なライブ配信市場の現状について教えてもらえますか。
水谷:広告・マーケティング業界にいると、ライブ配信はトレンドとして注目されていますが、一般的な世論と照らし合わせると、ライブ配信アプリのカテゴリー自体の認知はまだまだ低いというのが現状です。
この状況を見てもライブ配信はまだエンタメのファーストチョイスには入れておらず、スマホゲームや動画を見ている余暇時間の受け皿になっている状態です。そのため我々は、市場の創造が目下の課題と認識しています。
MZ:そのような現状の中で、春に大きなキャンペーンを仕掛けようと思った理由について教えてください。
水谷:「17 Live」は、米国Frost & Sullivan社が2018年11月に行った日本ライブ配信アプリにおけるマーケットシェア調査で、1位の売上を誇っています。また、我々のリサーチではシェアの割合は50%を超えている状況です。ただ、先ほどお話ししたようにカテゴリー自体の認知度が低いので、まずはカテゴリーの認知拡大、その上でサービスの認知を取っていく必要がありました。
関:その中で今回のキャンペーンを通じ、カテゴリーの認知からDAU(デイリーアクティブユーザー)の向上につなげたかったんです。さらに、「17 Live」のベネフィットを正しく伝えて、Twitterでの認知を高めていきたいという目的もありました。というのも、「17 Live」とTwitterは、互いに「今何が起こっているか」を大事にするメディアで、親和性が高いと考えていたからです。
またTwitter上で正しくサービスの会話がされていないこともあって、アプリに対しネガティブなイメージも散見されていたため、パーセプション(認識)チェンジを起こすことも、重要なポイントでした。
動くファンが付いている人とタッグを組む
MZ:今回のキャンペーンでは、キャスティングにも非常にこだわったと聞いています。具体的にはどのような方をキャスティングしたのでしょうか。
水谷:今回キャスティングを行う際、我々が特に重視したのはその人に「動くファン」が付いているかどうかでした。
有名な芸能人の方が正解とは限らず、YouTuberやインフルエンサーの方も選択肢に入ってきます。というのも、後者のほうが行動につながりやすいファンが付いているケースが多いからです。そして、今回起用させていただいた今泉佑唯さんは、その条件にぴったり当てはまっていました。
関:彼女のTwitterを見ても、ファンの方と非常に細やかなコミュニケーションをしていて、ファンの方からの信頼も厚い。さらに、ファンの方と一緒に何かをすることを大事にしている様子がうかがえたので、彼女と共創していけば、良いキャンペーンができるのではと考えました。
水谷:そして、「17 Live」では「Empower Artist, Entertain the World.~才能を輝かせ、世界をワクワクさせる~」というミッションを掲げています。欅坂46を卒業し、これから女優として新たな一歩を踏み出す今泉さんの姿とそのミッションが重なった点も、キャスティングした理由の1つです。
今泉ファン、新規層を動かすために必要なメッセージとは?
MZ:今回のキャンペーンでは、どのようなメッセージを届けようとしたのでしょうか。また、なぜそのメッセージにたどり着いたのか教えてください。
水谷:キャンペーンで一番伝えたかったのは、“ライブ配信の楽しさ”です。それを掘り下げていった結果、 “インタラクション(相互作用)”がポイントだと考えました。配信を行うライバーとユーザーとの間に発生するコミュニケーションにこそ、独自の楽しさや価値があるのです。
そして、今泉さんを起用することも踏まえて考えたところ「今泉さんと一緒に番組を作っていくこと」をコンセプトにしたメッセージにたどり着きました。
関:コミュニケーションに関しては、今泉さんを通じてインタラクションを起こし、既存ファンと新規層を巻き込みながら、ライブ配信の楽しさを伝えるために必要なことを考えました。
特に重要だったのは、今泉さんのファンや「今泉佑唯×17 Live」に関心を持ってくれる人がどんなトライブ(共通の興味や目的で繋がる集団)であるかを、正しく理解することです。コミュニケーション設計を行う前に、ソーシャルリスニングなどを通じて、それらのトライブの人々がどのような共通言語でコミュニケーションを取っているのか、また今泉さんの良さをどう捉えているのか細かく整理。その上で、トライブごとにリアクションしたくなるコミュニケーションを考え、時間軸に合わせて戦略的にメッセージを当てていきました。
配信当日がピークになるよう盛り上がりを醸成
MZ:実際には、どのようなキャンペーンを行ったのでしょうか。
水谷:一言でいえば「Twitter上で祭りを起こそう」としました。2019年4月29日から5月1日の3日間、今泉さんにライブ配信をしてもらうことが企画のメインですが、加えてライブ配信当日までにいかに盛り上がりを作れるかが重要でした。そのため、4月21日から、今泉さんにどのようなテーマでライブ配信をしてほしいかをTwitterで募集するキャンペーンを実施し、今泉さんを中心にコミュニケーションを展開しました。
関:そして、ライブ配信期間に今泉さんのファントライブを含めて、より多くの人に見てもらうためにはどうしたら良いか考えた結果から、具体的には事前のコミュニケーションを3つのフェーズに分けて行いました。
フェーズ1:今泉さんが「17 Live」でライブ配信をすることに対して、ファントライブに興味を持ってもらう
フェーズ2:ライブ配信当日、「17 Live」でしか見られない今泉さんが見られるという期待感を煽る
フェーズ3:フェーズ1、2で反応してくれた人に対して、アプリインストール広告を配信する
これらのフェーズに合わせて、Twitter上では「#イチナナ今泉佑唯の部屋」という共通のトークテーマを作り、それを使って会話量を増幅させるコミュニケーションを展開しました。LPなどもあえて用意せず、今泉さんのTwitterのタイムライン上と、こちらのハッシュタグ上に情報が集まる設計にしています。
そして、リーチ&フリークエンシー広告を活用して露出を最大化し、サービスへのポジティブな言及などをしている方には、プレゼントキャンペーンを用いたアプリインストール広告の配信を行いました。また、どんなトークテーマが良いかをカンバセーショナルカードで投票、もしくはリツイートしてくれた人に対しても、リターゲティングしてアプリインストール広告を打ち、当日の参加者を増やしていきました。
1人を細かく見たコミュニケーションを
MZ:キャンペーンを実施する中でどのような点に気を付けましたか。
水谷:上手くプランニングができた要因として、トライブにいる人を詳しく可視化できた点があると思っています。
今泉さんは、Twitter上でファンとのコミュニケーションを積極的に行っています。その内容やファンの方のアカウントを見ていくと、彼女のどんなリアクションでファンが喜ぶのか、普段ファンの方がどんなことを考えているのかが、細かく浮かび上がってきます。
コミュニケーションを取るべき相手が明確に見えていたので、企画も自然と降りてきましたし、クリエイティブなども迷わず作ることができました。
関:1人を細かく見ることは本当に重要で、これができないと企画の成功確率は下がってしまいます。トライブの中にも、エンゲージメントが高い人から低い人まで様々ですが、今回のキャンペーンでは、それが企画段階から細かく見えた。その上で企画を立てられたのは、非常に良かったと思います。
企画を考えるとき、通常はペルソナを立てて「Who」を定めていくことが多いと思いますが、ペルソナ通りの人ってほぼいませんよね。トライブによって、共通言語やリアクションしたくなるメッセージは異なるため、各トライブに対して丁寧にコミュニケーションを設計していくことが大切です。Twitterにはトライブを知るヒントがたくさん眠っているので、そこから「Who」を詳細に探れたのは大きかったです。
キャンペーンで得られた成果とは?
MZ:施策を行ったことで得られた成果について教えてください。
水谷:まず、アプリのユーザー拡大に寄与しました。Twitterの広告効果に関しては、リーチ単価が0.65円と、Twitter Japanの担当者の方も「この数値は見たことない」と驚くほど良い数値でした。キャンペーン期間中の「17 Live」に関連したツイート量も多く、Twitterのトレンドにも入りました。
関:ゴール目標としていた、Twitter上での「17 Live」に対するパーセプションチェンジを起こすこともできたと考えています。施策前はアプリに対してネガティブなイメージが散見されましたが、今泉さんのライブ配信を通じて「17 Live」の楽しさを正しく伝えられたことで、施策後にはポジティブな雰囲気ができ、今後のキャンペーンにも活かせる環境が作れたと思います。
水谷:また、今後も活かせるコミュニケーションのスキームを作れた上に、知見も貯めることができたのも評価しています。
関:サービスやアイコンに紐づくトライブを個々で捉えて、施策に反映できたことがこのような結果に結びついたと考えています。このコミュニケーションの規模感を大きくするのか、新たなタッチポイントや起用するアイコンを増やすのかなど、今後考えるべきことは様々あります。
ただ、基本的な考え方は変わりません。サービスに対するトライブの望ましいリアクションは何かを考え、新たなトライブとの結びつきを創出した上で、情報設計の波に乗るにはどうしたら良いか。トライブからリアクションをもらえるか否かがすべてだと思っていますので、そこを意識したプランを実行できると良いと思います。
今回のスキームを今後も活かす
MZ:最後に、今後の展望について教えていただけますか。
水谷:今よりも多くの方に「17 Live」を楽しんでいただけるよう、様々なジャンルのコンテンツを揃えながら、新しい企画も行って多くの方にライブ配信コンテンツを届けていきたいです。
現段階でも、早く皆様にお伝えしたい進行中のものは多々ありますが、具体的な話は伏せさせてください(笑)。ただ、我々がミッションとしている「Empower Artist」という考えに基づいて、ライバーさんの才能を最大限引き出し、エンタメコンテンツとしてさらに楽しんでもらえるコンテンツになるよう企画中です。ユーザーさんはもちろん、ご参加いただいているライバーの皆様にも楽しんでもらえる企画ですので、ぜひ楽しみに待っていてほしいですね。
関:我々はPRをベースにしたマーケティングエージェンシーですが、コンシューマーは前提としてアンコントローラブルです。このアンコントローラブルで、様々なトライブから形成されるコンシューマーをどこまで細かく理解し、どこまで計算して狙い通りに動かすか。またブランドとトライブのコミュニケーションを通じて、どこまでビジネスをドライブさせられるか。これらを企画の段階から戦略的に設計し、ローンチ後も操縦していくことで、今回のコミュニケーションのように手ごたえを持って人を動かしていくことができるので、今後はその精度を高めていきたいです。
また、今回の企画が成功したのは、水谷さんをはじめ17 Media Japanの方と一緒になって企画をブラッシュアップできたからだと思っています。今後も一緒に歩み寄れるパートナーであり続けたいと考えています。