noteを通して「キリン」を人格化
高山:プロモーションのためではなく、あくまでコミュニケーションの場としているのですね。具体的にはどのようなコンテンツを発信されているのでしょうか?
加藤:最近一番反響が大きかったのは、「#社会人1年目の私へ」という投稿コンテストです。自分が新社会人だったときのエピソードを、「#社会人1年目の私へ」のタグ付きで、文章やマンガなど自由な形式で投稿していただくという内容のものです。

この企画内容、キリン製品はほぼ登場しないのですが、「キリンは新社会人のみなさんに寄り添い、応援していますよ」という姿勢を見せる狙いがありました。企画を出して見ると、想定以上の反響を得られて。最終的に3,000件近いエピソードが投稿されました。
高山:インスタのハッシュタグキャンペーンでも、普通ここまでは集まらないですよね。これほどエンゲージメントが高くなったのは、noteの企画が「企業対人」ではなく「人対人」と感じられたのも大きかったのかなと思います。人は人に共感するのであって、企業という大きな括りには共感しにくい。だから、キリンという企業をうまく人格化できたのではないでしょうか。

情報拡散は「ファン」から「マス」へ
高山:では、サイボウズさんはいかがでしょうか?
大槻:ブランドが愛され続けるための取り組みの1つとして、オウンドメディア「サイボウズ式」があります。サイボウズ式がスタートしたのは2012年で、製品の特徴よりも、当社の根幹にある理念や、社員の想いを発信することに徹し続けてきました。
というのも、「なぜサイボウズがグループウェアを作っているのか」を知ってもらえないと、検討すらしてもらえないと気づいたからです。当時、売上は40億円前後まで到達していたのですが、そこから伸び悩んでいました。過去の成功体験にとらわれるあまり、プロモーション手法もずっと変えることなく同じ訴求を繰り返していたのです。
あらゆる製品やサービスに言えることですが、キャズムを超える前と後では、ターゲットにするべき属性が大きく変わります。キャズムを超える前のイノベーター層やアーリーアダプターは、機能や競合優位性を理解して自分に必要であれば取り入れようとします。一方、キャズムを超えた後のマジョリティ層に対しては、機能訴求よりも「何の課題を解決できるのか」を伝えていかなければいけません。

当時のサイボウズもキャズムを超えていたので、発信内容を変える必要があると気づきました。また伝える内容だけでなく、チャネルも考え直しました。それまでマスメディア中心に広告出稿していたのですが、どうしても埋もれてしまう。であれば、まずはファンの中で盛り上がってもらうのが一番だと考えたんです。
すると、オウンドメディアでファンにリーチし、ファンがSNS上でサイボウズについて言及すると他のネットメディアに波及し、大きな話題になるとマスメディアにも取り上げられるという流れが生まれました。

高山:なるほど、ファン→ネットメディア→マスメディアという順番なのですね。起点となるファンに盛り上がってもらうためには、どうすれば良いのでしょうか?