DMPとの連携で広がる世界
統合型マーケティングでのプランニングや効果測定は、テレビ単独のデータではなく、テレビ×デジタル広告といったメディア横断のデータで行うことが理想です。また、設定したターゲットへの広告配信をシームレスに行える環境も求められています。

それらの広告主のニーズに対応すべく、広告代理店などは、実数型データであるスマートテレビ視聴ログと各種DMPを推計で結び付けたメディア統合型DMPの整備を進めています。(電通のSTADIA、博報堂DYのAtma、インテージのMedia Gauge Dynamic Panelなど)
DMPを介して、テレビ視聴データに対して購買データや移動データを推計ロジックによって連携させることで、テレビCM効果測定の課題である、実行動との紐づけも技術上可能となります。また、DMPを利用し、プランニング時に設定したターゲットセグメントに直接デジタル広告を打つこともできます。
ただし、それらのメディア統合型DMPにも、「ネット利用者のバイアス」「人単位視聴の推定精度」「テレビCMの自由度の低さ」といった課題が存在します。
(1)ネット利用者のバイアス
メディア統合型DMPで分析・配信される対象者は、ネット利用者に限られ、現在テレビを最も視聴している高齢者の大部分が対象から外れることになります。
スマホも含めたネット利用者で考えるとネット接続率は非常に高いですが、テレビ視聴者全体のうちスマートテレビを保有し、かつそのテレビをネットに接続している比率はまだ3~4割に留まります。急速に増加はしているものの、幅広い世代へのリーチをその特長としているテレビを計測するには、一定のバイアスの存在を前提として利用する必要があります。
ただし、今後5Gなど通信環境が改善し、いわゆるIoT、常時接続があたりまえの時代となるにつれ、徐々にバイアスは解消されると見込まれます。
(2)人単位視聴の推定精度
スマートテレビ視聴ログは機器単位の視聴ログです。DMPと連携し属性が紐づいたとしても、ログからは、そのテレビ機器がある家庭に「誰が住んでいるか」「どの時間にテレビがついていたか」はわかりますが、「誰がその時間に見ていたか」まではわかりません。
その課題の解決にむけて「パネル型調査データを教師データとしモデルで推定」や、「推定在宅情報を組み合わせて人単位視聴を切り出す」など、各社がアプローチを講じており、推定精度は各社のデータによって異なります。
(3)テレビCMの自由度の低さ
テレビCMにおいては現在の商習慣では、ターゲットセグメントだけにテレビCMをあてるアドレサブル広告や、リアルタイムでのCM出稿量の増減など、デジタル広告で行われているような自由度が高いアプローチはできません。
テレビのマーケティングデータがリッチになってきたとしても、それに対する打ち手がテレビではとれず、CMを見ていない人にデジタル広告をあてるといったフォローに現時点では留まっています。今後、テレビCMのダイナミックな活用が可能になれば、メディア統合型DMPの活用範囲も広がっていくと思われます。
課題はあるものの、メディア統合型DMPが今後重要となっていくことが予想されており、各社はそのデータ量の拡大を進めています。実数型データは、パネル調査型データのように代表性を担保してマーケット全体を表しているわけではなく、バイアスがあることを前提としており、その価値はそのデータでアプローチできる絶対量によって決まります。
プランニングや効果測定で活用するなら、たとえば「テレビ×YouTube」といったメディア横断のキャンペーンで、どれだけ計測対象サンプルを、人単位かつ属性の精度を高くして出現させることができるかで、計測プラットフォームとしてのビジネス規模が決まります。また、広告配信で活用するなら、人単位で何百万人にアプローチできるデータなのか、メディアとしてリーチの絶対量が足りるか、という視点でビジネス規模が決まります。
集めるデータ量が増加し、DMP×実数型データで説明できるサンプルサイズが一定以上に達すると、テレビCMの取り引きもGRPやリーチといったマスマーケティングの指標だけでなく、購買率やダウンロード率といった実行動(コンバージョン)で測り、取り引きされるマーケットを新たに作り上げることができるのではないでしょうか。
