会社とユーザーを知るべき理由とは
会社とユーザーを知らなければ、Web分析・改善を行うことはできません。そのためのさまざまなデータは、Webで取得することが可能です。
会社を知る
会社を知らなければ、Web分析・改善どころか、何の施策も行えません。会社を知るための方法は第2章でも紹介しましたが、それは戦略を知るために概要をつかむということでした。Web分析・改善のためには、図3-1のような会社のWebの状況も把握する必要があります。
もしサイトが複数ある場合は、それぞれの目的を把握することから始めましょう。次に、サイトの構造を理解します。どういったコンテンツがあって、どのようなナビゲーションとなっているかをチェックしてください。サイトの構造を理解し、コンテンツやナビゲーションの意図を捉えることで、その会社への理解を深められます。
Googleアナリティクスなどの計測ツールを使用しているのであれば、セッション数などの数値やその推移は必ず知っておかなければなりません。数値は状況の把握に役立ちます。ポイントは、単に数値を眺めるのではなく、比較することです。年間の各数値の推移や前年比は、会社のトレンドの理解につながります。たとえば前年との比較は「いま」の状況把握になるでしょう。
また、Web広告の実施有無や、その他ツールの導入状況なども大切な情報です。これらはなんらかの意図があって実施・導入されたものなので、背景を理解する助けになります。可能であれば、導入したことによる結果もわかればベターです。コンサルティングなど他社のWeb を改善するような場合は、既存の広告やツールの結果を知らないと、効果的な改善方法の提案はできません。まずは、さまざまな情報を集めることに努めてください。
ユーザーを知る
■思い付きの施策にならないために
商売の基本は、誰に、何を、どう売るかです。商売の起点は「誰に」の部分なので、これが欠如すると商売は成り立ちません。ここではその「誰に」、つまり顧客についての定義を行ってみましょう。
顧客の定義の1つとして、競合と比較したときに自社を最も評価してくれた人というものがあります。継続して評価してくれれば、その人はファンとなって長いお付き合いができ、企業は継続的な利益を得られるのです。自社をあまり評価していない人も顧客と考えてしまうと、真の顧客像がぼやけてしまい、戦略も立てづらくなってしまいます。
もしユーザーの理解なしに、Web分析・改善を行うとどうなるでしょうか。絶対に失敗します。数値はユーザーの行動の結果ですが、ユーザーを知らなければその意図を読み解くことはできません。数値から仮説を立てて、改善案を立てるようなことは不可能といえるでしょう。もし改善案を立てられたとすれば、それは経験則からきたものか、思い付きの案です。
Web分析・改善の目的は、事業に成果をもたらすことです。思い付きで行うのではなく、精度が高く、成果をもたらす可能性が高い施策を考えるようにしましょう。
■Webだからわかるユーザーの情報
ユーザーを知る具体的な方法は次節で詳しく書きますが、ここではWeb特有の内容を説明します。
ユーザーを知ることができる、最たるWeb特有のデータはキーワードです。サイトに訪問するときに使ったキーワード(自然検索キーワード)は、ユーザーのニーズそのものといえます。現在では、セキュリティとプライバシー保護の観点から、Googleアナリティクスなどではキーワードの取得がほとんどできません。しかし、Googleサーチコンソールを使えば、ある程度キーワードを把握することが可能です(図3-2)。
このようなツールを使い、キーワードからユーザーのニーズを把握してください。
また、アクセス解析ツールなどにより、よく見られているページから、ユーザーにとって魅力的なページとは何かを把握できます。ユーザーの年齢、性別、閲覧地域なども取得可能で、SNSであれば「いいね!」の数なども参考にすることができます。デモグラフィック(年齢・性別)なデータは推定値となりますが、このようにWeb上のデータを活用して、ユーザーを知るよう努めてください。
まとめ
サイトやWeb上のツール、実施施策とその結果など、Webだからこそわかるさまざまな情報を集め、会社を深く知ることが大切です。また、同様にデータやWeb上のツールを活用し、どのようなユーザーが自社を最も評価してくれる顧客となるのかを知るようにしましょう。
フレームワークを利用するメリットと効果的な組み合わせ
フレームワークを利用することで、論理性を高めることができます。また、フレームワークは、社内はもちろん、社外においても共通言語となりえます。さらに、組み合わせて使用することにより、会社とユーザーへの理解を深めてくれます。
フレームワークのメリット
フレームワークは、経営学者や経営コンサルタントがビジネスを分析するために作り出した「考え方の枠組み」です。有名なフレームワークとして、すでに本書でも触れた3C分析、4P分析、5フォース、PEST分析などがあります。
フレームワークを使用するメリットの1つは、筋道を立てて論理的に物事を把握できるということです。Web分析・改善をするうえで、論理性は欠かせません。積極的にフレームワークを活用し、論理性を高めてください。
また、世の中にはいろいろなフレームワークがありますが、まずは自分が使いやすいと感じるものを使うようにしましょう。フレームワークの使用には慣れが必要で、だんだん精度やスピードが向上します。まずは1つのフレームワークを繰り返し使って、体に覚え込ませてください。
フレームワークのもう1つのメリットは、共通言語となることです。多くの場合、事業領域や戦略、戦術の解釈は人それぞれです。多様性の面から考えると一概に悪いことではありませんが、解釈が異なるとコミュニケーションのズレが生じてしまいます。Web分析・改善を進めるには、さまざまな人の協力が必要です。自社のWebであれば、上司やその他の部署の協力が必要ですし、クライアントに対して行う場合は、相手方の協力が不可欠です。このとき、コミュニケーションのズレは大敵といえます。
フレームワークの使用は、こういったコミュニケーションのズレを減少させます。フレームワークの使用に慣れている人とであれば、意思疎通が非常にスムーズになります。もちろん使用に慣れていない人もいますが、フレームワークは現状の理解を行うために作られた、わかりやすい考え方の枠組みです。相手が不慣れな場合でも、フレームワークを一緒に使ってみて、共通言語にできるよう挑戦しましょう。
STPとペルソナ
■自社の立ち位置を決める「STP」
STPはSegmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)の頭文字を取った分析手法です。セグメンテーションで市場を細分化し、ターゲティングで細分化した市場から狙うべき市場を決めます。そして、ポジショニングで、その市場で自社が取るべき立ち位置を設定します。
ここでの市場とは、類似したニーズを持つ顧客層群を指します。言い換えると、STPは顧客層を分け、絞り込み、その顧客層の中での立ち位置を定めることといえます(図3-3)。
■「ペルソナ」で理想の顧客像をイメージする
ペルソナとは自社の商品・サービスを利用する理想の顧客像です。ただし、設定したペルソナそのものが実在することはほとんどありません。しかし、ペルソナに向けた行動は、ペルソナと類似した顧客を集めることができるため重要です。さらに、ペルソナを決めることで顧客へ向けた行動にズレがなくなり、チームで共通認識を持つことができるというメリットもあります。
■STPとペルソナをうまく活用するには
STPは顧客層を分け、絞り、立ち位置を定めること、ペルソナは理想の顧客像を設計することと書きました。そのため、STPの「ST」の部分とペルソナは組み合わせて考えることが可能です。
まず、セグメンテーションとして、年齢、性別、居住地域、仕事、趣味など、顧客層を分ける切り口を洗い出します。ここでは、切り口を洗い出すことだけを考えてください。年齢は何歳か、などと考え出すと発想に制限がかかってしまうからです。
次はターゲティングです。セグメンテーションで挙げた切り口に対して、「20代、男性、居住地域は首都圏、IT企業の営業、釣りが趣味」といったように、理想の顧客像に当てはまるものはどれかを考えます。ここまでで、ペルソナの骨格はほとんど完成しています。
最後に、好き・嫌いなどの価値観や、平日・休日の過ごし方、写真など、ペルソナを具体的にイメージできるようにすれば完成です(図3-4)。ペルソナから作ろうとすると、どうしても発想が広がらず、足踏みしてしまいます。STPを利用すれば、筋道を立てて作成することができるのです。
4P分析と4C分析
■企業視点で考える「4P分析」
4P分析はProduct(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(販売促進)の頭文字を取ったフレームワークで、企業が戦略や計画を立てるときに考えなければならない視点をまとめたものです。各語からもわかる通り、4P分析は企業視点で考えます。
■顧客視点で考える「4C分析」
反対に、4C分析はCustomer Value(顧客が得る価値)、Cost to the Customer(顧客の負担コスト)、Convenience(利便性)、Communication(コミュニケーション)の頭文字を取ったもので、顧客視点で戦略や計画の立案に必要な視点をまとめたフレームワークです。つまり、4P分析と4C分析は、対になっているといえるでしょう。
■4P分析と4C分析をうまく組み合わせるには
この2つを組み合わせると、企業視点・顧客視点の両方から、自社の商品・サービスの整理ができます。言い換えると、4P分析で機能的価値を、4C分析で情緒的価値を整理することが可能といえます。
機能的価値は商品・サービスそのものが提供する価値で、掃除機であれば掃除ができるといった機能そのものを表します。情緒的価値は、商品・サービスを利用することによって得られる心理的価値です。掃除機でいえば、部屋がキレイになって気持ちがいいなどです。
現在では、この両方から商品・サービスを整理することが重要です。4P分析、4C分析を組み合わせて活用していきましょう(図3-5)。
まとめ
フレームワークを使うことで論理性を高めることでき、関係者との共通言語にすることも可能です。ユーザー理解のためにはSTPとペルソナ、企業理解のためには4P分析と4C分析というように、フレームワークは組み合わせて活用することもできます。ただし、フレームワークの利用には慣れが必要です。まず自身が使いやすいものから、使い方を体に染み込ませてください。
Webサイトのビジネスモデルを理解する
Web上のビジネスモデルは、大きく以下の4つに分類できます。
- イーコマース
- リードジェネレーション
- メディアサイト
- サポートサイト
どのようなサイトも、どれか1つの機能しか持ちえないというわけではありません。しかし、ビジネスモデルの種類を把握することは、事業の理解に役立ちます。
イーコマース
最もわかりやすいビジネスモデルがイーコマースです。AmazonやZOZOTOWNなどが代表的で、通販サイトやECサイトとも呼ばれています(図3-6)。
イーコマースの特徴は、Web上でビジネスが完結することです。一般的に、イーコマースの成果地点は購入で、購入により売上が発生します。売上はビジネスの成果といえるので、Webとビジネスの成果が直結するビジネスモデルといえます。
リードジェネレーション
リードジェネレーションは、Web上でリード(見込み客)をジェネレーション(製造)するビジネスモデルです。つまり、Web上では見込み客の獲得までにとどまり、ビジネスの成果はそれ以降のステップを経てから生じます。
わかりやすい例としては不動産のサイトがあります(図3-7)。サイトを見ただけで不動産を購入する人はいません。一般的には、資料請求や問い合わせがサイトのゴールとなります。
問い合わせや資料請求後には商談があります。何回かの商談を重ね、納得してもらえれば成約となり、ここでビジネスの成果が発生します。このように、サイト上でビジネスの成果が発生しないビジネスモデルは、リードジェネレーションと呼ばれています。
リードジェネレーションのサイトでは、どれだけWeb上の成果を伸ばしても、ビジネスの成果につながらない場合があります。資料の質が悪く商談に至らない、営業方法に問題があり商談を何度行っても成約しないなど、Web以降のステップに課題がある場合があるからです。Web分析・改善の目的は、事業に成果にもたらすことです。そのため、リードジェネレーションの場合は、Web以降のステップまで踏み込んで考える必要があります。
メディアサイト
メディアサイトの最もわかりやすい例はYahoo!でしょう(図3-8)。検索エンジンという側面もありますが、Yahoo!には経済やニュース、芸能やスポーツなどさまざまなコンテンツが存在しています。
このようなサイトのビジネスの成果は広告収益です。メディアサイトには、商品やサービスを宣伝するコンテンツやバナーなどが掲載されています。これがメディアサイトの収益源です。
メディアとしての価値が高くなければ、企業は広告を出しません。メディアサイトのWeb分析・改善を行う場合は、メディアとしての価値をどう指標化するかを考えることが重要です。
サポートサイト
サポートサイトは、Q&Aサイトなど、ユーザーのサポートのために存在するサイトです(図3-9)。サポートサイトのビジネスの成果は、顧客満足度とサポート品質の向上です。ユーザーが商品やサービスを利用するときに疑問や不安に思うことを解決できれば、顧客満足の向上だけでなく、販売にも貢献します。
さらに、電話による問い合わせなどを介さずにサイト上で問題を解決してもらえれば、運営コストも下げられます。たとえば、コールセンターを外部委託しているとしましょう。コールセンターは、「電話対応1件あたりいくら」と計算していることが多いため、ユーザーから電話があればあるほど経費がかかります。このような運営コストを下げることもサポートサイトの目的の1つです。
ビジネスモデルの理解
1つのビジネスモデルの機能しか持たないというサイトはあまりありません。たとえば、イーコマースのサイトには、「よくあるご質問」などのコンテンツやコールセンターが設置されていることも多く、サポートサイトの側面も含んでいます。
ビジネスモデルを理解するのは、ビジネスの流れを理解するためです。「リードジェネレーションだからWeb以降にもステップがある」、「メディアサイトだから広告収益をどう上げるかがポイントだ」など、ビジネスモデルを理解することでビジネスの流れがわかり、分析における着眼点や指標の設計に役立ちます。複数のビジネスモデルの機能を有しているサイトでも、これは変わりません。複数のモデルの視点で考えればよいのです。
反対に、ビジネスモデルへの理解がないと、複数の機能がある場合、そのサイトの目的を理解しづらいでしょう。4種類のビジネスモデルは忘れないようにしてください。
まとめ
Web上のビジネスモデルは、イーコマース、リードジェネレーション、メディアサイト、サポートサイトの4つに大別できます。ビジネスの理解に役立つため、サイトのビジネスモデルは必ず覚えておきましょう。ただし、1つの機能だけしか持たないわけではないことに注意してください。
事業の流れを知り、よさを見つける
事業のよさを見つけるためには、まず外部環境・内部環境を調査し、事業について知ることが重要です。そして、その内容を3C分析によって整理し、事業のよさを見つけ出してください。
外部環境を分析する
事業を知るには、まずその事業の外部環境を理解しなければなりません。そのための有用なフレームワークとしてPEST分析を紹介しました(第2章を参照)。
外部環境にはPESTの項目以外に競合他社が存在します。既知の競合他社はもちろんのこと、最近になって積極的に広告を出しているサイトや、検索エンジンで上位に表示されているサイトなども調査しましょう。どんなコンテンツが用意されているのか、キャッチコピーで何を訴えているか、メールやSNSは行っているのかなど、できるだけ多面的に把握してください。
また、競合他社を分析できるWebサービスも積極的に活用しましょう。SimilarWebを使えば、競合他社のセッションや直帰率などの概算数値を得られます(図3-10)。あくまで概算のため、数値の正確性には注意が必要ですが、傾向の把握には役立ちます。
競合他社の調査で最も大事なポイントは、ユーザー視点で見ることです。1人のユーザーとして競合他社の優れている点、劣っている点を見るように心がけましょう。
内部環境を分析する
次に、内部環境を分析します。内部環境を分析するとは、強みを生み出す資源を洗い出すということです。商品やサービス自体なのか、働いている人なのか、ツールなのか、強みにつながりそうな資源をリストアップしましょう。
また、Googleアナリティクスなどのアクセス解析ツールや広告管理画面のデータは、内部環境を知る助けになります。よく見られているコンテンツは何か、どの参照元からユーザーは流入しているのかなど、数値からヒントを得るようにしてください。
クライアントワークを行っている方は、そのクライアントの主要なビジネスモデルを理解しましょう。
3C分析で攻めるべき事業領域を見つける
■3C分析とは
3C分析は大前研一氏が考案した分析手法で、Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の頭文字を取ったフレームワークです。汎用性の高いフレームワークのため、いろいろな人に、さまざまな解釈で利用されています。3C分析では、顧客、競合、自社の3つの要素から考えることにより、その企業が戦うべき事業領域を見つけ出すことができます。
分析の順番のセオリーは、「顧客→競合→自社」の順です。自社から分析してしまうと、どうしても自社が基準になり、顧客と競合の分析に偏りが出てしまいます。自社の強みは顧客が価値と感じる部分であり、相対的に決まるものです。顧客視点で考えられるよう、顧客から分析を始めるようにしてください。
顧客を分析する際は、STPとペルソナを使ったり、Webの数値を利用したりして、分析に深みを持たせてください。また、競合は上述した内容に加え、直接競合や間接競合も洗い出せるとよいでしょう。自社の分析では、4P分析や4C分析も利用してみましょう。
顧客、競合、自社の分析ができたら、3C分析の図に当てはめます。そして、顧客と自社のみが重なる部分はどこか(何か)を見つけ出してください(図3-11)。
■市場機会を発見しよう
競合と顧客が重なる部分は、競合が強みを発揮している市場です。競合が強い市場でわざわざ戦う理由はありません。また、顧客・自社・競合すべてが重なっている部分は、いわゆるレッドオーシャンです。顧客のニーズはあるが、競合も参入しやすい市場といえます。このような市場では、激しい価格競争が繰り広げられます。価格で戦うと利益が圧迫されるので、事業の縮小は避けられません。
狙うべきは、顧客と自社だけが重なっている部分です。この部分は、顧客が自社の強みを感じている部分といえ、競合が参入しづらい市場です。これを見つけることを「市場機会の発見」ともいいますが、この部分が自社の強みとなります。
3C分析は使いやすいですが、奥が深い手法です。自社の強みを発見できたと思っても、次の日に見ると間違っていると感じることは多々あります。顧客・競合・自社の分析結果を何度も行き来しながら、繰り返し行ってみてください。自分だけでなく、その事業に関わる誰が見ても納得感のある 自社の強みを発見するようにしましょう。
まとめ
事業の流れを知るために、外部環境・内部環境を分析しましょう。その結果をもとに3C分析を行うことで、事業のよさを見つけることできます。3C分析は「顧客→競合→自社」の順で行い、顧客と自社のみが重なる部分を見つけ出してください。
ユーザーの行動を知り、顧客心理を理解する
ユーザーの行動を知ることで、ユーザーの理解が深まります。ミクロ解析やカスタマージャーニーを使い、ユーザーの行動を可視化し、理解するよう努めてください。
ミクロ解析
■ミクロなデータを活用するメリット
ユーザーを知るために、まずはペルソナを設計しましょう。ペルソナ設計の際には、Web上で得られるデータも用いて、精度を上げるようにしてください。よく見られているコンテンツや、滞在時間が長い参照元、デモグラフィックなど、Web上のデータはペルソナの補強に役立ちます。
さて、ここまで書いたデータの種類は、マクロな視点でのデータです。ユーザーの行動を知るために、ミクロな視点のデータも活用しましょう。つまり、サイト全体の視点ではなく、ユーザー1人の視点で考えるということです。
ユーザー1人の行動から仮説を得るための分析がミクロ解析で、1人のユーザーをコンバージョンに導くことだけを考えます。そうすることで、マクロな視点ではわからない課題を発見できるのです。もちろん、ユーザーの行動を追うことで、ユーザーへの理解も深まります。
以前までは、有料のツールでなければミクロ解析は行えませんでした。しかし、いまではGoogleアナリティクスのユーザーエクスプローラという機能で実施できます(図3-12)。
■ミクロ解析の具体的な方法
具体的な分析手法を紹介しましょう。まず、対象期間の中から、どのユーザーの行動を追うかを決定します。このとき、1セッション1ページしか見ていないユーザーの行動を追っても、何の気付きも得られません。「訪問回数5回以上で、コンバージョンに至ったユーザー」など、気付きを得られそうな条件を設定し、対象となるユーザーを選定しましょう。
次に、閲覧経路を分析していきます。閲覧したページの特定だけではなく、閲覧した順番、各ページの滞在時間、閲覧している環境などに注目してください(図3-13)。それにより、利用シーンや訪問目的、知りたいこと、興味を持っていること、課題に感じていることなどについて仮説を立てられます。その仮説から、そのユーザーをコンバージョンに導くための施策を考えるのです。
ミクロ解析で得られた気付きは、Webに関わる人以外にも有益です。マクロなデータからの課題をいわれても、Webと関係ない人はなかなかピンときません。しかし、1人の顧客が感じている課題となれば、イメージが湧きやすく、共感を得られやすいものです。ミクロ解析の結果は、積極的に他部署にも共有するようにしましょう。
カスタマージャーニー
■カスタマージャーニーを考えるメリット
ユーザーの行動を知るためのフレームワークとして有名なのは、カスタマージャーニーです。ユーザーを定義し、そのユーザーが商品・サービスを認知し、興味を持ち、企業の最終目標に到達するまでを旅になぞらえて分析することから、この名前が付きました。カスタマージャーニーではそれに加え、ユーザーの行動傾向とその思考、心理変化も考えます。
カスタマージャーニーは、社内やクライアントとの共通認識にするために、マップとして可視化されることがあります(これをカスタマージャーニーマップという)。形式はさまざまですが、ユーザーの行動を時系列に分け、そのタイミングごとに接点やユーザーの行動、体験、心理的変化を分類し、図示します(図3-14)。
■カスタマージャーニーマップの作成手順
カスタマージャーニーマップの作成は、ペルソナの設計から始まります。ユーザーの行動を追うフレームワークのため、ペルソナがまず必要なのです。
次に、ユーザーの行動範囲を決定します。範囲が広すぎると正確に把握できません。どこで最初の接点を持って、ゴールをどこに設定するかを考えてください。決めた範囲の中でユーザーの行動をステップ化します。慣れないうちは、3~5つぐらいのシンプルなステップがおすすめです。
ステップができたら、そのステップごとに企業とユーザーの接点を洗い出します。そして、その接点でユーザーが課題に感じることを洗い出し、施策へと落とし込んでいきます。
カスタマージャーニーとユーザーフロー
カスタマージャーニーと第2章で取り上げたユーザーフローは一見似ていますが、もちろん違いがあります。カスタマージャーニーは、顧客の行動から心理を把握しようとするフレームワークです。心理変化を促す解決策を考えるところにポイントがあります。一方のユーザーフローはあくまで行動に焦点を定めて、それを促すための具体的な戦術をセットで考えます。
どちらか一方を使うというよりも、両方をうまく組み合わせながら、ユーザーの行動とその理由を深く理解するよう心がけましょう。
まとめ
ユーザーを理解するために、その行動を理解しましょう。そのためには、ミクロ解析やカスタマージャーニーが便利です。どちらもユーザー視点で行うようにしてください。
Column アクティブユーザーモデル
本章で紹介した4種類のビジネスモデルの他に、最近はアクティブユーザーモデルという新しいモデルが現れています。これはアプリやオンライン上の継続利用型サービスのことを指し、サブスクリプション型と都度課金型の2種類に分かれます。
サブスクリプション型の代表的なサービスは、Apple MusicやNetflixなどです。これらのサービスでは、商品そのものを購入しているわけではなく、期間に応じて利用権を購入しています。端的にいうと、定額の料金を支払っている間は、そのサービスを利用できるようなビジネスモデルです。このサブスクリプション型のビジネスモデルは、企業にとっては安定的に利益を得られるというメリットがあるため、広がりを見せています。
都度課金型の代表的なサービスはアプリゲームです。ゲーム内のアイテムやコインをユーザーに都度購入してもらい、その収益がビジネスの成果となります。
どちらのビジネスモデルも、「サービスを頻繁に使うユーザーを増やすこと」、「そのユーザーの中でも料金を支払うユーザーを増やすこと」、そして「継続的に利用してもらうこと」が重要です。そのため、売上や会員数、継続率などを目標値とすることが多いです。今後はアクティブユーザーモデルのサイトやアプリが増えることが予想されるため、いまのうちにそのビジネスモデルを理解しておきましょう。