チャットボット以外の人工知能活用、リテール分野では37兆円規模の効果も
レビットタウンのウォルマート店舗における新しい人工知能施策は、商品の調達・在庫管理という一見地味な取り組みであるが、リテールブランドの多くがまだ手を付けていない領域であり、その事実を考慮すると先駆的で可能性が大きい取り組みと見ることができる。
グローバルに事業展開するフランスのコンサルティング会社キャップジェミニ(Capgemini)の調査が興味深い事実をあぶり出している。
この調査は2018年8月、欧米の主力リテールブランド400社に対して、人工知能活用に関する聞き取りを実施。導入実績、取り組み内容、投資計画などのトレンドを明らかにしている。
この調査の対象となったリテールブランドの売り上げトップ250社のうち、人工知能をなんらかの形で導入していると回答した割合は28%だった。これには、試験的導入から本格導入まで様々なステージの人工知能活用の取り組みが含まれている。
この割合は、売り上げトップ100社に絞り込むと41%とさらに高くなり、ウォルマートなど大規模なリテールブランドほど積極的に人工知能を導入している事実が浮き彫りになっている。
リテールブランドの人工知能導入では、米国がリードしている印象があるが、国別データは意外な事実を示している。
リテールブランドにおける人工知能普及率の世界平均は29%。同調査で最も普及率が高かったのは英国で39%だったのだ。次いでフランスが37%、そしてドイツ(29%)、米国(25%)となった(国別のサンプル数に偏りがあることには注意が必要)。
大手ほど人工知能活用の取り組みが進んでいるリテール業界だが、その活用方法では消費者寄りの施策が多いことも明らかになった。
チャットボットなど消費者に直接関わる人工知能施策が74%を占めているのだ。一方、在庫管理などのオペレーション向けの人工知能施策は26%に留まっている。
人工知能を活用したチャットボットやパーソナライゼーションなどの施策は、消費者の買い物体験を向上させ、売り上げ増につなげられることが考えられるため、多くのリテールブランドが注力していると推察される。
一方、オペレーション側の人工知能導入はまだ広がりを見せていない。しかし、キャップジェミニの推計によると、在庫管理、需要予測、商品調達などのバリューチェーン川上領域において人工知能を導入した場合、大幅なコスト削減を実現できる可能性が示唆されている。その額は3,400億ドル(約37兆円)に上るという。
たとえば、買い物客の購買行動を高い精度で予測できるとすると、売れ残り在庫を抱えるリスクが減り、ムダなコストも削減することができる。ドイツのEコマースOttoは、30億に上るトランザクションデータと200の変数(検索ワードや天候など)から、買い物客が何を購入するのかを90%の精度で予測することができる。これにより、商品返却数を年間200万件減らすことに成功している。
ウォルマートの新しい取り組みはまさにこの領域に切り込むものであると言えるだろう。世界最大のリテールブランド・ウォルマートがオペレーションコストの大幅削減に成功したとき、リテールブランドにおける人工知能施策のトレンドは大きく変わることになるかもしれない。