分析事例:意識高い系男子的『キレイ/かっこいい』価値観
近年男性用のスキンケア・ボディケア市場が拡大の一途をたどる※3中、男性はどのような『キレイ/かっこいい』自分でありたいと思っているのか。今回は、“身だしなみや身ぎれい”という価値観も同時に探るため、「かっこいい」ではなく、あえて、『キレイ/かっこいい』をテーマにし、イマドキ20代男性の価値観を探ってみた。
また、調査対象には、未来への兆しをつかむため、『キレイ/かっこいい』を意識し、行動に移しているインフォーマント(情報提供者)を選出した。
インフォーマント(対象者)プロフィール
27歳未婚、1人暮らし男性、新商品に敏感で、現在使用スキンケア品数4品
テーマ
「男のキレイ/かっこいい」から連想するコトやイメージ、ワードは何ですか。あなたはそれをどう捉えていますか。
連想されたワード<連想順>
〈1.清潔感〉、〈2.優しさ〉、〈3.気遣い〉、〈4.肉体〉、〈5.男らしさ〉、〈6.スポーツ〉、〈7.エスコート〉、〈8.責任感〉、〈9.ファッション〉、〈10.TPO〉、〈11.綺麗な肌〉、〈12.髪型〉
 まずは、自作マップから見てみよう(図表2の左マップ)。マップの中心は、テーマにおける一つの答えが表出するエリアであり、ここに、〈清潔感〉が置かれた。この〈清潔感〉が、「最も重要であり、これは外見・内面にも関係する」と語られた。周辺にある〈優しさ〉、〈気遣い〉と意味合いが近く、〈清潔感〉は振る舞いであると話していた。現在、実際に取り組んでいる〈綺麗な肌〉、〈ファッション〉、〈髪型〉については、「マストではなく、少しの努力で叶えられるもので、重要度は低いもの」と、語られていた。自作マップの自己分析段階から、「対女性/周囲への振る舞いや行動が重要」と捉えられていた。
自作マップの説明後、距離データをもとに解析を行った解析マップを呈示した(図表2の右マップ)。ワードの位置が異なるものについて、なぜ異なっているのか、自身で考えてもらった。すると、見えていたようで見えていなかった、自身の『キレイ/かっこいい』価値観が見えてきた。
たとえば、〈男らしさ〉のワードの位置に着目すると、自作マップでは、〈スポーツ〉や〈肉体〉など、「男らしさは、鍛えられた肉体であること」を意味していた。しかし、解析マップでは、〈気遣い〉や〈優しさ〉など、女性に対する振る舞いのエリアに存在しており、「男らしさは、女性に対する行動のほうが重要」と気づきを得ていた。
最も重要と語られていた〈清潔感〉は、中心ではなく、〈綺麗な肌〉や〈ファッション〉の外見に寄っており、本人が理想とする内面の要素ではなく、外見から感じられる〈清潔感〉に留まっていることに新たに気づいた。
また、『キレイ/かっこいい』価値観のなかで、身の回りのものがどのような意味を持っているか確認するため、新たに刺激ワードとして〈車〉カードを解析マップにプロットしてもらった(図表3)。
 所有するかっこよさもあるといえる車だが、彼にとっての〈車〉は、「車で送ってあげられる」など、行動価値につながっていることがわかった。
最後に、この対話を経て、「普段から、“対相手への行動”が大事だ、と思っていながらも、マップの状態から、マストではないと感じていた“見た目”に、日々の意識が偏っている」ことに気づきを得た。「日々、見た目を気に掛けるのはもちろんだが、もう少し異性に対する気遣いや優しさを、“行動”に落とすとしたら何ができるかを考えていきたい」と語っていた。
ひとりの“意識高い系男子インフォーマント”の期待構造を深掘ることで表出された〈車〉の意味や、〈男らしさ〉の意味は、未来への兆しと言えるであろう。男性にとって、『キレイ/かっこいい』の世界では、車は所有する価値や、自由に移動できる価値ではなく、“気遣い”としての価値がある。車は、「移動するもの」以外に、「気遣いするためのもの」、「優しさの場を提供するもの」として捉え直した時、新しい車の形が見えてくるのではないだろうか。
※3 男性用スキンケア・ボディケア市場規模推移(販売金額ベース)2015年度は225億円であった市場が、2018年度は251億円まで伸長。
ソース:インテージ SRI(全国小売店パネル調査)
男性用スキンケア・ボディケア市場定義:弊社標準品目「男性用化粧品」より洗顔、化粧水、乳液、クリーム、美容液、パック毛穴、パックうるおい、ボディケア、日焼け止め、洗顔シート、リフレッシュシートの11カテゴリーにて定義。
“意味”を拓き、新しい暮らしへと導く
イノベーションにつながるアイデアの創発には、生活者の暮らしに視座を置き、商品やサービスを捉えていくことが重要である。「どうなりたいか」、「どんなものが欲しいか」を直接聞くだけでは、フォーサイトは得られない。生活者と対話し、ともに学びを得ていくプロセス。この学びのプロセスに未来への兆しがあり、イノベーションのヒントにつながるものと考える。
生活者の暮らしに、現在の商品やサービスがどういう価値(意味)を持っているのかを理解した上で、これから、どのような暮らしへと導いていきたいか。新しい暮らしへとつながる方法についてインタビューを受ける生活者とともに考え、その結果から、新しい商品やサービスの兆しを発掘していきたい。
