SNSでの話題作りで大切にしている3つの要素
――デジタル系のプロモーションや企画をするにあたり、SNS上での話題作りがキーになると思うのですが、その際に意識していることはありますか。
絶対に押さえているのは、「文脈」「共感」「驚嘆」の3つです。SNSで今何が話されているのかという「文脈」、発信姿勢に対する「共感」、発信内容に対する「驚嘆」、これらが話題化には欠かせないと考えています。
最近では加えて、そのアカウントだからこそ言えることを意識するようにしています。Twitterを見ると、企業のツイートより一般の利用者によるツイートのほうがおもしろいケースもあるじゃないですか。特に縛りもなくパロディもできるなど自由度も高いですし。そうした中で企業が話題を作ると考えると、その企業ならではの内容でないと目立てなくなっているわけです。
僕が携わってきた企画で説明すると、大正製薬「リポビタンD」のプロモーションで、お馴染みの「ファイト一発」を「ファイト不発」にする企画にもそうした要素が詰まっています。
ケイン・コスギさんが「ファイトー!」の呼びかけを無視されるという内容なのですが、3要素に当てはめると、「文脈」としては、Twitterに投げかけられていた「危機迫る中で『ファイトー、イッパーツ!』と絶叫するのは時代錯誤だ」という声を受け、その文脈に乗っかる形でやろうとなりました。そして「共感」を作る発信内容として、「時代錯誤と言われたのでこうしましたがどうでしょうか」とツイートし、「ファイト一発」が「ファイト不発」になるという「驚嘆」を生むキーワードを出して、PRしていきました。
そして、どの企画も原則「1ビジュアル、1ワード」であることを心がけています。短くてフリとボケがわかりやすいものが受けます。だからパロディがハマりやすいんです。元ネタがあるから理解しやすく、ワンビジュアルで伝えやすいので。
――デジタル広告とマス広告で、企画を発想する際の違いはありますか。
僕は、デジタルとマスの企画は分けて考えたほうがよいと思っています。マスとデジタルは連動させたいという意見もあると思いますが。
最近だと、2月に明治の「ミルクチョコレート」のバレンタイン施策を担当したのですが、毎年実施しているテレビCMの大枠は変えずにデジタル施策を何かやって欲しいとの要望でした。テレビCMに出演している松本潤さんを残し、それ以外はデジタルならではの発想で考えました。
その時は、松本さんの名前に掛けて“待つ潤”という、松本さんが皆のミルクチョコレートを待っている企画にしてプレゼントキャンペーンを行いました。加えて、新宿のプロムナードで松本さんのロッカーにチョコレートを入れることでお返しがもらえるイベントを行ったところ、多数の人が来てくれ、Twitterでもファンの方々を中心に25万件以上のツイートが生まれました。
このように参加性を持たせ、ユーザーがSNSで投稿したくなる要素や発信できる素材を提供することが、特にソーシャルでは重要だと考えています。
開発したツールをきっかけに話題作りを考えるように
――今まで自身が取り組んできた案件で、一番手応えを感じたものはなんでしょうか。その理由も教えてください。
一番印象に残っているのは、自分で開発したWebサービスにまつわる話ですね。入社直後からテレビCMやコピーを作っていたのですが、少し伸び悩みを感じている時期がありました。
その頃、SEKAI NO OWARIのFukaseさんがある暗号をツイートして、テレビやTwitter上で話題になっていました。それに対して、世間では『ちょっと痛いね……』みたいな文脈ができていたのですが、それに便乗して「フカセ暗号ジェネレーター」という、Fukaseさんと同じような暗号が作れるWebツールを数日後に公開したんです。
それが大きな話題になって、3日で4万回暗号が生成され、100万PV近く閲覧されました。それをきっかけに、デジタル上での話題作りに強いと思われるようになり、ソーシャルで話題を作るような案件が増えていきました。
そのうちの一つが、日清食品「日清のどん兵衛かき揚げ天ぷらうどん」の企画で、画家のクリスチャン・ラッセンにかき揚げを描きあげてもらう企画を行いました。

情報流通速度が上がっている中で、サイト上で見ることを前提にしたものではリーチしないと思い、タイトルとキービジュアルのみでも企画趣旨が伝わる“見出し逆算型”の企画にしました。キービジュアルは、ラッセンが描いた海に浮かぶかき揚げの絵画です。
当時「どん兵衛」に関するプランニングは、CDCプランナーの尾上永晃さんを筆頭にした二層構造のチームだったのですが、この企画に関しては、5年目以下が集まったチームに任せてくれた中で結果を出せたので、安堵したのを覚えています。
小さい経済圏の中で価値観を統一する言葉を作りたい
――事業主のマーケターに対して、求めることはありますか。
表現に対して口を挟まれるのを嫌がるクリエイターもいると思いますが、僕はクリエイティブに対しても、根本の企画段階から突っ込んで話してもらいたいですし、それができる関係性を築いていければと思っています。言われることで、新たな気づきを与えてもらうこともよくあります。
お願いがあるとすれば、デジタルの施策をやる際に、数ばかりに意識をとらわれないで欲しいということでしょうか。特にソーシャル系の企画で誰を起用するかを検討する際に、フォロワー数だけで判断されるケースが多くて、もったいないといつも思っています。こちら側が提案をする時、その人が持つ文脈や、複数人起用する際にはその組み合わせに意味があって提案しています。デジタルだと数が説得材料になってしまいがちですが、数以外にも目を向けていただけるとより良いものができると思います。
あとは、担当者の方とクリエイターのマッチングの精度も大事で、良いと思うものの感性がある程度近くないと良いものができないと思っているし、そのズレが大きいと話し合いが難航してしまうパターンも出てきます。マッチングは代理店の営業にかかってくるわけですが、雑誌などを見る中で良い企画だと感じるものがあれば、直接仕事をお願いするというのも一つの手。そのほうがマッチングの精度は高いし、良い結果が出ることもあるでしょう。
――最後に、今後の展望について教えてください。

今行っている「誰もが知るブランドの話題化施策」も楽しいのですが、元々ITサービスの開発や新しい価値を広げることのサポートをしたいと思っていたので、スタートアップやベンチャー企業など、まだ世の中に価値を知られていなさそうな企業やサービスの認知を広げるフェーズにおいて、新しい価値を翻訳して伝える仕事をしていきたいです。
また、今は小さい経済圏みたいなものが増えていると思っていて、昔からある街のカフェみたいな、小さいけど温かいコミュニティの需要が高まっていると思います。実際にそこでモノが流通し、経済が回り出しています。
そういうところで、価値観を統一するような言葉の開発に非常に興味があって、それに広告の告げる技術を応用させていきたいです。インナーブランディング系の仕事がそれに近しいと思っていて、企業の信念や価値観を言語化することは今後より重要視されるものになるはずなので、そのお手伝いもしたいです。