「全日本DM大賞」グランプリはデジタル×アナログの最先端
「そもそも紙は人の心に響くのか? だとしたらそれはどのような要因によるのか?」に迫ったこれらの実験によって、紙での訴求の効果があぶり出された。単に送ればいいのではなく、アナログである紙とデジタルであるEメールの接触の順序や、世代による印象の差、さらにロイヤルティによる感じ方の違いも明らかになった。
冒頭で大木氏が触れたように、昨今ではデジタルとアナログを組み合わせたマーケティングの考え方が広がっており、成功事例も出始めている。実は、30年以上の歴史がある「全日本DM大賞」でも、第33回(2019年)のグランプリ作品はデジタルとアナログを組み合わせた秀逸な事例だった。同賞の審査委員でもある奥谷氏が「僕が考える最先端のDM活用例」と紹介するのは、ディノス・セシールの「カート落ちDM」および「小冊子DM」だ。
「カート落ちDM」はコンバージョンが約20%増。また、購入商品に合わせてパーソナライズしたコーディネートを提案する「小冊子DM」は、Webの顧客層のレスポンスが約10%増だったという。
一方、奥谷氏が「イチオシ」と語るのは、金沢市の飲食店、味一番のシンプルなはがきDM。銀賞を受賞した本DMは、「夏をもっと燃やせ!」「よくばりに頬張れ!」と、親近感や人間味を感じさせるコピーが効いている。また、昨今は大学の受験促進プロモーションでも優れた事例が多く挙がっている。曼荼羅を模した、高野山大学の「シークレットキャンパス密書」は「神秘すぎる、秘密すぎる大学」として好奇心を刺激した点で銀賞を受賞。他にも、大学の特色や世間的なイメージをうまく紙のクリエイティブに落とし込んだ受賞作が目立った。
「フロー型」から「ストック型」のマーケティング思考へ
前半の実験で「30代以下のデジタルネイティブ層でより紙のDMの効果が認められた」こと、また「デジタルに慣れているため紙が一層意外性を持つのでは」と示唆されたことは、大学が紙でのプロモーションに力を入れている背景としても捉えられる。日々学生に接している外川氏は、「ふだんPC上のPDFで授業の資料などをチェックしている学生たちも、試験の間際には紙でプリントアウトしてもっています。測定してはいないので学習効果との相関は定かではありませんが、少なくとも“重要だから紙でもっていたい”“読んだ感がある”と思っていることが推察できます」と話す。
こうした様子に気づくことからも、施策のヒントが得られるだろう。「顧客の接点の持ち方、タッチポイントでのタッチの仕方もどんどん変わっているので、これらを観察することがまず重要になると思います」と外川氏は指摘する。
一方、奥谷氏は実験結果からわかった紙によるエンゲージメント効果に触れ、マーケティングの4Pが従来のように「Product→Price→Promotion→Place」と順を追って展開される際の「フロー型マーケティング思考」を脱して、プレイス(場)起点の「ストック型マーケティング思考」へ転換していくことを提唱する。
最後に大木氏が、顧客がデジタルとアナログを行き来するカスタマージャーニー、そしてそこにデータがどう関わるかを図示すると、奥谷氏は「これは僕がずっと提唱してきた『顧客時間』の拡張」と補足する。各タッチポイントで顧客に体験価値を提供し、そのデータを蓄積してまた次の施策へとつなげる。「この一連を回していくことが、まさにマーケティングそのものになっているのではないかと思います」と話し、セッションを締めくくった。