「デジマ下剋上」失敗談にみる、イベントの本質

西川:セッションの質を高めるための方法について、私の失敗談から一つ補足したいことがあって。それは「このセッションで何を持って帰ってもらいたいか」という本質については、最後までよく考え抜くべきだということです。
――詳しく聞かせていただけますか。
西川:以前、通販に関わるマーケターに登壇をお願いし、「CPA高騰時代の広告との付き合い方」というパネルディスカッションを実施しました。議論を通じて、パートナー様や事業者様とともに、「通販」の考え方をアップデートしたいと考えていたのです。
でも実際やってみると、スピーカーの皆さんから、他の領域のマーケターも参考にできるような良い話がどんどん出てきたんですよね。私がモデレータをしていたのですが、自分の中で事前ゴールを決めてしまっていたことが邪魔をして、全然拾うことができなくて。
自分一人で細かいゴールやセッションの方向性を決めてしまうと、軌道修正が難しくなる。そういう意味で、「このセッションで何を持って帰ってもらいたいか?」についてはスピーカーと腹を割って話し、共通見解をもっておくことがとても大切。一方で、当日出てきた良い話を活かすことができるよう、柔軟性をもってゴールを設定しておくことも必要だと痛感しました。
兒嶋:ゴールを定めることでディスカッションが予定調和になってしまうこともあって、コントロールは本当に難しい。毎回、試行錯誤ですよね。
利光:質の担保という意味では、盛り上がるセッションや、来てよかったと思われるイベントには、二つの要素のどちらかが含まれていると思っています。
一つは具体的なエピソードを提供できているか。もう一つはキラーワード。つまり、参加者にエピソードやキラーワードを、そのまま使いたいと思ってもらえるかどうかです。「何を持って帰ってもらいたいか」という狙いをもつことは大前提ですが、それを受け取り、表現するのは参加者です。
そのため、エピソードが生まれやすいトピックを選ぶことや、スピーカーがキラーワードを言ってくれるような質問を投げかけることは、常に意識しています。
ポイント(5)
・「セッションを通じて何を持って帰ってもらうか」を熟考する。
・その上で、エピソードとキラーワードが生まれやすい環境を作る。
達成を後押しするプラットフォームでありたい
――最後に、「デジマ下剋上」の今後の展望を教えていただけますか。
兒嶋:実はイベントを立ち上げた諸石くんと僕は、運営から退くことにしています。これは初期の頃から考えていたことなのですが、「デジマ下剋上」はあくまでプラットフォームだという思いがあって。
若手マーケターには誰しも、「こんなふうになりたい」という仕事や人生の目標があるはずです。つまり、皆それぞれの下剋上がある。「デジマ下剋上」の場をうまく使ってもらって、それぞれがやりたいことを成し遂げることができれば、それが一番良いことだと思います。
今後のことはまだはっきりとは決めていないのですが、やりたい人が「デジマ下剋上」の運営を引き継いでいく、オープンプラットフォームのような形態をとることも、選択肢の一つだと思っています。
西川:これまで開催してきたイベントだけでなく、もう少し小さなコミュニティをいくつも作って、分科会をやってみるのも良さそうです。様々な業界のマーケターが集まって日々の課題を共有し、アイデアを出し合って。その中から「ちょっとそれPDCA回してみるわ」と施策が生まれて、その成果を発表できたりすると、おもしろいのではないでしょうか。
利光:世の中にはまだまだ、頑張っている20代、30代がいるはずです。彼らが前に出られる場所をもっと作っていきたいと強く思っています。ここで知り合った仲間が、5年後、10年後に、一緒に新しいビジネスを作っていったりすると嬉しいですね。