対面営業が強いがゆえに極めてアナログだった
――気づきを得た後、どういった部分から着手されたのですか?
デジタルで商材を売っていくにしても、当時はその業務を引き受ける部門がなかったので、まず営業とマーケティングに分かれていた部署を統合して「法人マーケティング本部」を発足しました。実は7年ほど前からインサイドセールスの部隊もあったのですが、“攻め”ではなく受け身の顧客対応になっていたので、機能を立て直すべくインサイドセールスも包括しました。
そしてBtoBのデジタルネイティブな売り場としてECサイトを構築し、それを軸に顧客行動を可視化して次の施策に活かす、高速PDCAを回していくことを構想しました。ツール導入や体制の構築を進め、いよいよ本腰を入れると公表できたのが、先の講演のタイミングでした。
――講演にて、現在はAdobeやMarketo、Arm Treasure Dataなど複数のツールを導入して駆使していると話されていました。そのスピードもさることながら、一気に攻勢をかける勢いも感じます。導入にあたり、抵抗などはなかったのでしょうか?
抵抗はありませんね。それよりも好奇心のほうが勝っています。そもそも、当社は会長の孫(そん)を筆頭に、新しいテクノロジーをどんどん取り入れている会社です。2015年にはIBMWatsonといち早くエクスクルーシブな契約を結びましたし、翌年にはRPAも使い始めて業務の自動化も進めていました。
さかのぼればiPhoneを日本でいち早く販売し始めたときも、全社員に配布したくらいですし。そうやって自分たちのビジネスのデジタル化は推進してきたのに、気づけば営業だけはいまだに“切った張った”の世界で、恐ろしいほどアナログ文化が残っていたんです。
営業パーソンが介在しないデジタルセールスの実現
――たしかに対面営業中心だと、アナログがベースになりそうですね。
特にその渦中にいると、デジタルで顧客の行動パターンが取れるといったって「毎日会っている俺のほうが絶対に情報を持っているはず」と……私も思っていました(笑)。でも前述のように中小零細企業へは応用が利かず、個人的には営業職が若手から「きつい、格好悪い」と敬遠されつつあるのも残念で、腹立たしくもあって。だったら営業をデジタルで最先端に押し上げて、改めて花形にしようじゃないかと、そんな思いもありました。
――法人営業自体は好調の中、既存の仕組みを変えていこうとすると、反対や戸惑いの声もあったのではないですか?
好調の折での変化に嫌悪感を示すのは、たいてい私と同じ40〜50代の層ですよね。昔取った杵柄でビジネスをそのまま逃げ切りたい、という。でも、今の20〜30代にこのビジネスを正しく継承する役目もまた私の世代です。
昔のやり方にこだわっていたら、腐ったものを渡すことになる。そこは私の世代がチャレンジしないといけないと思っていますし、社内でも常々口にしています。ダメになりかけて新しいことに手を出しても遅い。好調なときこそ、未知の領域に踏み出さなければいけません。
ここで新しい経験を積み、失敗と成功を繰り返して、自分たちができる限りの整理をして次世代に事業を渡していく、そういう文化を作りたいと考えています。仕組みや体制の変革に加えて、合併を繰り返して今がある会社なので、何千とあるプロダクトや部分最適で動いているシステムの整理も課題です。
Arm Treasure Dataに顧客IDと行動を一元化
――「Adobe Symposium 2019」では、「タイムリーな情報提供、潜在ニーズの可視化、解約に至る潜在リスクの可視化」という3つのミッションを提示されていました。データ整備とツール活用が基盤にあり、その上での打ち手としてこの3つに注力されると理解したのですが、今はどのような段階にあるのですか?

おっしゃるとおり、基盤があってこその打ち手だと思います。まず、幸運にもトレジャーデータがグループになったので(※2018年、ソフトバンク傘下の英Armがトレジャーデータを買収)、現在はArm Treasure Dataという大きなインテリジェント“バケツ”に自分たちの営業活動のデータをとにかく集約し、整備中です。
いわゆる、名寄せですね。高度なマーケティング、そして営業活動を実践するためには、やはり自分たちの顧客を理解することが第一歩になります。そのために、名寄せは非常に重要です。当社には膨大な数の商材やサービスがあり、顧客はそれぞれにIDを持っていたりするので、そういった統合を一気に進めています。
――9月には、御社、博報堂、Armで、データ活用による企業の変革を支援する合弁会社の設立が発表されました。この動きは?
この新会社では、今まさに自社で実践中の顧客IDの一元化を知見として、外部企業のコンサルティングにつなげていく考えです。
――では、基盤が完成後のステップは?
構築した基盤の上でツールを活用し、実際の営業活動につなげていくことですね。もうできていると言いたいのですが、まさに今、試行錯誤中です。
たとえば、当社にPrimeDriveというファイル交換サービスがあるのですが、このトライアル促進を目的に、見込み顧客に対してドラマ仕立ての複数回のメールシリーズを配信しました。予想以上に効果が得られている状況で、営業パーソンが介在しないデジタルセールスの事例になっています。