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生活者データバンク

量的データではみえない生活者の真意を知る

シーンの深掘りから見える価値の違い

 こうして事前に収集した、記憶バイアスに縛られない「背景情報」をもとに、選定した対象者に対してデプス・インタビューを行った。その中でも特徴的であった、31歳未婚女性の例を取り上げたい。

 図表2-1・図表2-2は、彼女が事前にレコーディングしたビール商品の飲用シーンである。

図表2-1~3 レコーディング調査で収集された飲用シーン
図表2-1~3 レコーディング調査で収集された飲用シーン
(タップで拡大)

 ともにプレミアム系のビール(図表2-1の商品をビールA、図表2-2の商品をビールBとする)で、夕食時の写真であるが、食卓の様子はかなり違っている。それぞれどのようなシーンだったかを細かく聴取していくと、ビールAの飲用は、以前から楽しみにしていたという、恋人と2人で鍋を囲んだ日の夕食で、料理も手間をかけて作り、気持ちとしてもとても楽しい時間を過ごせたと語っていた。一方、ビールBの飲用は、恋人の帰りが遅い日で、1人で簡単な夕食を済ませたときであり、こちらにはビールAのときのような“楽しさ”は感じていなかった。

 つまり、ビールBに感じる価値は、「パッケージの高級感」や「味の美味しさ」という機能的な要素にとどまっていたのに対し、ビールAには同様の機能的価値はもちろん、それに加えて「楽しい雰囲気・シーンを演出する」という情緒的な価値まで感じられていた、と言える。当然、好意度がより高いのはビールAであった。

 さらに、彼女の「プチ贅沢」のレコーディングについてもみてみよう(図表2-3)。アロママッサージについて記入しており、全身のコリがひどく、それを解消するために定期的に行っている、と最初は語っていた。だが、この日のことを改めて振り返ってもらうと、マッサージの後に友達とおしゃれをして、いいお店に食事に行く約束があったという。そのような“楽しいイベント”の前に、マッサージというプチ贅沢を重ねることで、より気分が上がりさらに楽しい気持ちが倍増するのだと語っていた。これは、当初は対象者自身も意識していなかった価値観であり、レコーディングのデータをもとに精査を繰り返していくことで、導けたものであった。

 この価値観は、プレミアム系アルコールの消費にもそのまま当てはまっている。図表2-1のシーンはまさに、“恋人と美味しい鍋を囲む”という楽しみにしていたイベントを、さらに気持ち的に盛り上げるために選ぶのが、彼女にとってはビールAだったのである。

「シーンの演出」という情緒的価値の発見

 この「シーンの演出」という情緒的価値は、もう1名、42歳未婚男性でも挙がっていた(図表2-4)。

図表2-4
図表2-4(タップで拡大)

 彼は建築デザイン系の仕事に携わり、デザインやアートへの造詣が深く、美術館に行ったり美術書やデザイン系の写真集をみることで、刺激を受けたり、新しい価値観に触れたりすることが、日常から離れた“贅沢な時間”と感じる人であった。

 アルコールの飲用についても、日常的には、夕食を自炊しながらプレミアム系ではないアルコールを常飲しているが、仕事で疲れたりストレスを感じたりして“贅沢をしたい”と思うときには、夕食後にゆったりと好きなデザイン系の写真集や映画をみながら、常飲しているのとは違うプレミアム系アルコールを飲むことで、気分転換ができ、非日常を味わえるという。選択意識にも違いがあり、常飲する非プレミアム系商品は、中華料理ならビール、というように料理との組み合わせを考えて、酒類カテゴリで選んでいる。

 一方、「シーンの演出」という価値を持つプレミアム系アルコールに関しては、お酒のバックグラウンド(生産国/生産地・製造のこだわり・味の細かな特徴・自身がそのお酒と初めて出会ったときのエピソードなど)のほうが重要で、飲みながらみる映画や写真集の内容と、お酒のバックグラウンドの相性を考えて選んでいる、ということがわかった。

 このように、プレミアム系アルコールに「シーンの演出」という情緒的な価値を感じる2人には、共通点がみられた。それは、銘柄の認知が幅広く、かつそれぞれの製法やこだわり、味の特徴を細かく意識していることである。他の対象者よりも、商品やブランドに対する思い入れも深く、好意度もより高かった。

 つまり、プレミアム系アルコールの価値は、パッケージデザインや美味しさによる「高級感」や「特別感」の他に、お酒のバックグラウンドとしての尖ったストーリーが「シーンの演出」をしてくれる、という価値も感じられており、さらに後者の価値を感じるターゲットのほうが、アルコール全般に対する感度が高く、商品との絆も形成しやすいという可能性がみえた。

真意の理解のために必要な定性調査

 今回のレコーディング・インタビューにおいては、依頼をして商品使用時の写真、気持ち、状況などを「背景情報」として取得したが、購買ログやアクセスログなどの既存の行動データを利用しても、記憶をたどることはできるだろうし、事前に疑問や仮説を整理しておくことでインサイトを把握しやすくなるだろう。

 ただし、より実像をともなった生活者理解のためには、取得したデータだけに依拠するのではなく、それをもとに生活者の生の声を聞く、定性的なインタビューを組み合わせることが重要だ。生活者の無意識に潜む、行動や実態の根底にある「なぜ」を掘り起こすには、個人の「背景情報」を把握した上で、インタビューで精査していくことが欠かせない。

 量的データが身近になってきた今だからこそ、定性調査をうまく組み合わせ、正しく真意を理解することが今後、より重要性を増していくだろう。

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この記事の著者

小島 賢一(オジマ ケンイチ)

株式会社インテージ カスタマー・ビジネス・ドライブ本部 副本部長

2002年インテージに入社。リサーチアナリストとして数多くのプロジェクトに携わり、中でも商品開発支援を得意とし、ワークショップなどのファシリテーションも務める。2018年よりインテージクオリスに出向し、定性調査全般の指揮をとりながらサービス開発に...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/11/25 14:45 https://markezine.jp/article/detail/32368

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