※本記事は、2019年11月25日刊行の定期誌『MarkeZine』47号に掲載したものです。
本日のお題
あなたは焼きチョコ「ベイク」のマーケティング担当です。かつて森永製菓のアイドルチョコであったベイクは、徐々に売上が落ちていき、何をしても売れなくなってしまいました。なぜ売れないのかわからない……こんなとき、あなたならどうしますか?
回答者は……
森永製菓株式会社 マーケティング本部 菓子第一マーケティング部 藤井えり氏
2008年森永製菓入社。アイスクリームのマーケティング、チョコレート・スナックの商品企画、新商品のマーケティング担当を経て、2016年7月より秘書室にて社長秘書を担当。2018年4月よりベイクのマーケティング担当。2019年4月より現職にて、ダース・ベイクのマーケティングを担当。
商品リニューアルに向け、消費者のリアルな声を集めたかった
――今年7月、焼きチョコ「ベイク」を買わない理由をTwitterで投稿すると、森永製菓が「Amazonギフト券100円で買い取る」という「#ベイクを買わない理由100円買取キャンペーン」が行われました。まず、キャンペーンを実施するに至った背景を教えてください。
かねて商品の全面リニューアルを進めており、改善のヒントとなるユーザー調査を行っていました。ただ、一般的な調査では、消費者の本音までは拾えないのではないかと感じていました。Twitterを軸にしたキャンペーンで、なんとかリアルな声を集められないかと考えました。
「リアルな声を集める」という目的にしては、かなり思い切った施策だったのかなと思います。今回は、できる限りインパクトが大きく、消費者の目に留まることを優先して設計しました。
ベイク<ショコラ>は、売上の低下とともに露出の機会が減っていて。今ではコンビニにもほとんど置かれなくなってしまい、お客様の目に触れる機会が激減していました。限られた予算のなかで、どうすればお客様に思い出してもらえるかなと考え、今回の企画を実施するに至りました。
――キャンペーンサイトにも「何をしても売れない……」と、ネガティブな文言を載せているので、かなり異質なプロモーションだと感じました。インパクトを出すための手法は様々あると思いますが、そのなかでもネガティブな内容に振り切ったのはなぜでしょうか?
過去は花形商品だったのに、今は売上が下がってしまった、というマイナスな状況を逆手に取ってしまおうと考えました。ベイクは2003年に発売し、2006年に「手で溶けないチョコ」を打ち出してから売上が伸びていき、2009〜2012年頃が売上のピークでした。ただ、それ以降徐々に売上が落ちてしまって。売上ピーク時は社内でも花形商品として扱われていたのですが、だんだんと注目されなくなっていきました。
こんな状態で普通のポジティブな内容のキャンペーンを展開しても、他の人気商品に埋もれてしまうし、誰の目にも留まらないだろうなと感じていました。それならいっそ、自虐に振り切ったほうがインパクトを出せるのではないかと考えたのです。
――売上が下がった要因はどのように分析されているのでしょうか。
まだ推測の段階ではあるのですが、発売当初は「溶けないチョコ」「焼きチョコ」というカテゴリーの目新しさで購入いただけていたと思います。ただ、2012年頃から他社でも同カテゴリーの商品が登場し、新鮮さはなくなり溶けない、手につかないという機能的な価値も希薄化し始めたのが大きいのかなと思います。
季節商品の展開やアレンジレシピの提案など、様々な施策を試みたのですが、なかなか成果を得られませんでした。ここまでやってもダメなのは、おそらく商品そのものにボトルネックがあるのではないかと考え、全面リニューアルを考えることにしました。ボトルネックをしっかり見極めるためにも、消費者の忌憚ない意見が必要だったのです。