動画を入り口として、深いブランド理解を促す
――動画をうまく活用することで、購買タイミング以外での顧客接点を作るフックになると思いますが、ワコールさんではどのような施策を組んでいるのでしょうか?
川勝:たとえばワコール直営店の公式アプリ「WACOAL CARNET」は、ポイントがたまるので店頭での購買タイミングでは起動されますが、それ以外のお客様の日常生活の中ではなかなか使っていただくきっかけが作りづらいという課題がありました。そこで、お洗濯の仕方や下着の使い分けといった1分程度のアニメ動画を作って配信したところ、非常によく見られています。
――アプリ以外では、どんなどころで動画をマルチユースしているのでしょうか?
川勝:これまで作成した動画をまとめたポータルサイトを用意していますが、実はお客様向けだけでなく、社内に向けたインナーブランディングや販売員の教育にも動画を活用しています。
たとえば、ワコールの製品が実際にどう作られているのか、工場見学を体感できるファンイベントを東京・京都で開催しました。実際に工場で、ブラジャーが一枚ずつミシンで手縫いされている光景は、テキストではなかなか伝えづらく、動画だからこそ伝えることができるメッセージとインパクトがあります。このイベントの様子を録画し、参加者の生の感想を動画に収めて社内に共有したところ、波及効果はすごかったですね。
また別の観点では、ワコールには全国に何千人もの販売員が働いています。その方たちに向けた新製品やセールストークに関する教育動画も作成し、社内イントラを通して配信しています。販売員の方もどこでも手軽に必要な時にスマホで動画を見て勉強できる環境として活用し始めました。同時に、これまでの集合研修でかかっていたコスト削減にもつながっています。
「Brightcove Gallery」という動画ポータルを簡単に構築できるクラウドサービスを使っているので、Webページを作るのも簡単です。様々な動画ポータルサイト用のテンプレートが用意されているので、私一人でもあまり時間をかけずに作ることができます。かつては制作会社にLPの作成を外注していたのですが、そのコストを削減できたことはとても大きいですね。
顧客とのエンゲージメントの深化をどう示すか?
――動画の活用をはじめ、コンテンツマーケティングに取り組む最終的な目的は、顧客とのエンゲージメントの深化だと思います。しかし、その成果を示すのは簡単ではありません。ワコールさんとしては、この課題にどう向き合っているのでしょうか?
川勝:弊社のオウンドメディアとしては、商品情報サイトとは別に、「WACOAL BODY BOOK」というオウンドメディアも運営しています。「もっと製品情報を出すべきでは?」という社内の声もありますが、1年に1回した買わないアイテムの商品のセールス情報ばかりでは、お客様と接点を持ちづづけることは難しいと思っています。
女性が興味のある情報を出しながら接点を持ち、そして実はワコールが発信していた情報だと気づいてもらう、といった設計のもと始まったのが「WACOAL BODY BOOK」です。でも、理念だけではダメで、どれだけ売上に貢献しているのかは、常に問われます。
ですので、先ほどお話ししたファンミーティングを実施した際に、イベントの前後で来場者の購買行動がどうかわったのか、実際にデータで検証するなど、説明責任を果たす取り組みに挑んでいます。今は購買データと会員データがつながってきたので、少しずつですが以前よりも成果を示しやすい環境になっています。
同時に、一つひとつのコンテンツ作成にも真摯に向き合っています。例えば動画においては、視聴回数だけでなく、最後まで見られてこそ、エンゲージメントを深めることができます。「Video Cloud」のアナリティクス機能には、視聴データを元に動画ごとにエンゲージメントを示す指標が備わっているので、それらの指標を追いながら、最後まで見てもらえるコンテンツ制作に挑んでいます。
長年取り組む上で、ロングテールのコンテンツ作成のノウハウも徐々に溜まってきました。今後も派手さというよりは、長く続けながら成果に結び付く取り組みをしていきたいですね。