意味のイノベーションでも重視される「批判」
一般的に、デザイン思考やブレインストーミングと呼ばれるアプローチでは、批判ではなく共感から新しい方向性を模索しようとします。一方で、第1回で言及したベルガンティ教授による「意味のイノベーション」のアプローチは、批判を中心にそのプロセスを進めていきます。
そもそも批判とはどういった行為なのでしょうか。京都大学大学院教育学研究科の楠見孝教授は、批判的思考について、「論理的・合理的思考であり、規準(criteria)に従う思考」「よりよい思考をおこなうために、目標や文脈に応じて実行される目標志向的思考」そして「自分の推論プロセスを意識的に吟味する内省的(reflective)・熟慮的思考である」であると述べています。
3つ目の観点である、推論プロセス(何かしらの答えがない、わかっていないものに対して思考し、明らかにしようとするプロセス)自体を内省的に省みるという点こそが、自らの価値観を問い直す行為において欠かせないものであると筆者は考えています。
ではこうした批判的な視点を、マーケティング活動にどのように取り入れれば良いのでしょうか?
リサーチデータ×ワークショップで探索を行う
その方法として実施しやすいものの1つが、リサーチデータを活用した対話やワークショップです。筆者が所属するミミクリデザインでも、リサーチデータを活用したワークショップを実施しています。
最初、企業側がワークショップに期待するのは、データをヒントにして、成功の確度の高いアイデアを導き出そうとすることが多いように思えます。そのため、リサーチデータに求められるのは「確からしさ」であり、「成功を保証してくれるエビデンス」としての役割です。
もちろんリサーチデータはそうした役割を担いながらマーケティングを支援していますが、私たちはリサーチデータがもつ新たな可能性として、“曖昧であり、そのままでは答えが見えないような活用の仕方”に注目しています。
それを具現化したものの1つが、インテージが提供している「デ・サインリサーチ」というソリューション。以下の図は、そのソリューションより導き出された「マインドディスカバリーマップ」と呼ばれるデータです。「5年後、あなたはどのような人でありたいですか?」という問いに対して、思い浮かんだ言葉をあげてもらい、その言葉の「距離」を一対比較で回答してもらったデータを統計解析し導き出しました。

企画運営:インテージ 西日本支社/デ・サインリサーチチーム
調査対象:有職女性 20~30歳 670人
実施時期:2018年9月
リサーチデータというと、どうしてもデータから「わかること」に目が向きがちです。生活者の価値観に共感しようとするあまり、データから直接得られる解釈を共有し合うことに終始しても、それは既存の価値観の枠組みで解釈されることがほとんどです。生活者に新たな価値観をもたらすような創発的な新たなアイデアが生まれてくることはありません。今のまなざしでは理解することができないような「わからないこと」に着目し、問いを積み重ねていくことは、自分の「わかる」こと、つまり自らの価値観に対して批判的な目を向けることにつながります。あえてわかることから一旦離れ、問いを重ねることによって、創造的な批判の対話が生まれていきます。