※本記事は、2020年2月25日刊行の定期誌『MarkeZine』50号に掲載したものです。
花王株式会社 コンシューマープロダクツ事業部門 キュレル事業部 廣澤祐氏
2015年に入社しデジタルマーケティングを3年間経験したのち、2018年より現職。ブランドの担当者として、商品開発・販売・プロモーションなど様々な業務に携わる。2019年より一橋大学大学院経営管理研究科に在籍。
Q1.最近、いちばん感銘を受けた書籍とその理由は?
「戦略」という単語はビジネスにおいて非常に頻繁に飛び交うものの、その解釈は人によって異なり多様です。にもかかわらず、多くの現場で多様な解釈をなされた「戦略」に基づいて、人は行動しています。また、実は学問的にも「経営戦略」には様々な流派があり、学者の定義でさえ微妙な差異が存在しています。
本書は「経営戦略」の学説史を5つに分類し直し、「経営戦略」に対する様々な解釈とその特徴・変遷をまとめた上で、それを現場で使いこなすために必要な思考法を提示し、現実にどのように転用できるのかを実際に起きた事象をもとに説明しているものです。
経営戦略論に関する書籍には、学説史だけに閉じてしまい実務家にとってあまり興味を抱かれないものや、ケースなどを用いてできる限り実務に即してはいるものの、特定の流派に偏った主張や様々な流派を部分的に切り取った主張が展開されているものが多くあります。それに対して、本書は「経営戦略」の全体像を俯瞰して理解するのに効果的です。
全体を通して非常に論理的に書かれていますので、あまり本を読み慣れていない方も、普段から本を読みこんでいる方も楽しめる上に役に立つ、そんな書籍です。私は現在、本書の著者が副学長を務める一橋大学大学院に通っていますが、本書は入学して最初の必修授業である「経営戦略」でも参考書として用いられる重要かつ基本の書です。現場で飛び交う「戦略」に惑わされないためにも、ぜひお読みいただきたい一冊です。
Q2.「マーケターならこれを読むべし!」という書籍とその理由は?
「本書を一言で言い表してください」と問われると、非常に回答が難しい。タイトルのとおり大きな枠組みでは「コミュニケーション」に関する書籍と言えますが、本書はそれにとどまらず「企画」や「クリエイティブ」の本でもあり、メディア論やコミュニケーション論を入口に社会学という学問へ人をいざなおうとする、不思議な本です。
様々なエッセンスを含んでいながら199ページと案外あっさり読めますが、一回さらっと読んだだけではその真髄を理解するのは難しい本でもあります。本書が書かれたのは2012年。日々新しいツールや言葉が生まれ飛び交う広告業界に身を置いている方には古いと感じるかもしれませんが、本書は事例を交えながらモノの見方や考え方を抽象化していますので、現代の実務にも通じる内容だと思います。
とりわけ、後半の「コンテクストプランニング」は2012年当時よりもむしろ今読んだほうが納得感を得られるかもしれません。テクノロジーの発達にともないマーケターのやるべきことが増えていると言われます。しかし、マーケターに限らずビジネスマンが果たすべき役割は事業成長に貢献することです。次々と輸入されるバズワードや業界のはやりに惑わされず成果を出すには、実務の経験や知識を集積し抽象化してまとめあげ、環境が変わっても引き出して活用できるようにすることが重要だと思います。
本書はマーケターのみならず「コミュニケーション」に関わるビジネスマンへ、理論と現実をどのように行き来し活用するものなのか、その示唆を与えてくれるものだと思います。