12の専門ユニットで多ジャンルに展開
─―まずは、エイスリーのキャスティング事業について教えてください。
山本:エイスリーは、「総合」キャスティングが強みです。テレビでおなじみの芸能人から俳優、モデル、アーティスト、アスリート、専門家、文化人、クリエイター、声優、キャラクター、そしてインフルエンサー、YouTuber、TikTokerと、様々なジャンルから、クライアント企業のニーズにあったキャストをご提案、アサインしています。
一般的なキャスティング事業の場合、ある業界やジャンルに特化する傾向にありますが、エイスリーでは社内の組織を12の専門ユニット制に分け、そのジャンルに詳しい専門の担当者を置いています。
─―時代を反映した、12の専門ユニット制で、幅広い領域をカバーしているんですね。企業や代理店などのクライアントから、様々なニーズがあるのだとうかがえます。
山本:おっしゃる通り、クライアントからのキャスティングニーズは多様化しています。その背景に、YouTubeやInstagramをはじめとしたSNSプラットフォームの台頭による、メディア環境の変化があります。
メディアの多様化で進む、人気タレントの細分化
山本:以前は、テレビで見るような、誰もがよく知るタレントや有名人をキャスティングすれば、認知向上などの目的を、果たせていたと思うんです。
しかし、メディアが増えた分、消費者の好みや支持するタレントにも変化が起こり、クライアントには「効果を高めたいが、そのために誰を起用すればよいのかわからない」という課題が発生しています。特にZ世代など若い世代が支持する対象は、テレビタレントから、インスタグラマー、YouTuber、VTuberにまで広がりを見せるなど、「人気タレント/インフルエンサーの細分化」が起きています。ターゲットに響くキャスティングを考えるのは、とても難しいのが現状です。
──確かに、「子どもが支持する人気者は?」と聞かれても、すぐにはわからないですね。
山本:そうです。YouTuberにしても、そもそも「どんな人がいるのか?」の把握すら難しくなっています。中には、トップYouTuberよりフォロワー数は少ないけれど、ある層への影響力は高いインフルエンサーもいるわけです。
エイスリーでは、各ユニットの担当者が「このジャンルにはどんなキャストがいて、どのような層に影響力があるのか」を常に調査しています。ですから、クライアントからの「〇〇さんをアサインしてほしい」という要望に応えるだけでなく、キャンペーンの目的やニーズに合わせた、適切なキャスティングをご提案しています。
フォロワー数より本来のニーズを重視すべき
─―続いて、エイスリーのキャスティングの特徴を教えてください。
山本:エイスリーは、表面的なバズを起こすのではなく、クライアントの目的にぴったりと当てはまるキャストのアサインを、モットーとしています。先ほどもお話したように、クライアントからキャストの希望をいただいた場合でも、より最適なキャストをご提案することがあります。
たとえば、プロ仕様のカメラをインフルエンサーマーケティングで訴求したいとき。「インフルエンサー」「インスタグラマー」の言葉から、フォロワー数を何十万と抱え、インスタ映えする写真が得意な若い女性をイメージし、その方を起点にバズを起こしたいと考えるケースがあるかもしれません。しかし、商材のターゲットを考えるならば、フォロワー数が少なくてもカメラに詳しい人やレビュアーなどをキャスティングすべきでしょう。弊社にはプロフェッショナルユニットというチームがあり、有名なカメラマンもアサインできます。インフルエンサーの捉え方が徹底的に広いのが弊社の特徴です。
「インフルエンサーとは、発信するすべての人たちである」が、私たちの定義です。タレントはもちろん、芸能人もアスリートも何かの専門家も、発信する人たちはみんながインフルエンサーです。本質的なキャスティングをするように、努めています。
─―フォロワー数だけで、判断はしないと。クライアントのニーズに本当に適したインフルエンサーをつなげる、マッチングサービスに近いのですね。
山本:はい。エイスリーでは、インフルエンサーを所属事務所などによって区分けしたり、ネットワーク化したりせず、すべての事務所、フリーの方々の情報をデータ化し、公平な立場から、クライアントにご提案しています。いわば、コンシェルジュですね。この公平さは事業を始めたときから大切にしています。クライアントの目的を最大化するだけでなく、キャストの影響力も最大限に生かせる案件とつなげ、クライアントとキャストの双方にとってプラスになることを目指しています。
データだけでなくキャラクターを伝える
─―それでは、エイスリーにキャスティングを依頼したときのフローについても教えてください。
山本:まずは、お客様のキャンペーンのこと、そして目的をしっかりとヒアリングします。月に400件を超えるご相談をいただきますが、その内容は様々です。たとえば、YouTuberをご希望でご相談されても、企画の内容から声優のほうが良さそうだと思ったときは、社内の声優を扱うユニットにバトンタッチし、引き続きご提案をしていきます。あわせて、ひとつのキャンペーンだけでなく、動画とイベント出演といった複数のメディアにまたがるご提案も可能です。
─―12の専門ユニットで対応するからこそ、あらゆるニーズに応えられるんですね。キャストを決めるときは、どのような情報が提供されるのでしょうか。
山本:インフルエンサー等を起用したデジタルマーケティング方向でのご相談の場合は、フォロワー数などの数値はもちろんのこと、パーソナルデータや価値観、発信の内容までキャストの情報をお伝えします。定量的なデータだけでなく、キャストのキャラクターまでご理解いただくことが、キャストへの信頼とキャンペーンの成功につながると考えます。
─―インフルエンサーマーケティングでは、炎上トラブルが懸念されます。どのような対策を採られていますか。
山本:まずエイスリーでは、炎上トラブルを起こさないようなキャスティングを前提としています。普段から、秘密保持やコンプライアンス等を含めた契約締結はもちろん、社内担当者とインフルエンサー間のコミュニケーションが多く、信頼関係も築けているからこそ、キャスティングの精度が高いんです。また、万が一トラブルがあっても、リカバリーを行っています。
膨大なキャストデータを基にした、スピーディな提案と適切なコスト、キャンペーンの実行や運用間のトラブル対応、リカバリーも含め、キャンペーンのゴールまで寄りそうことが、エイスリーの強みだと思います。
ジャンルを超えた組み合わせが話題を生む
─―続いて、キャスティング事例について、教えてください。
山本:デジタル領域では、SNSで話題にすることを目的とした動画コンテンツのキャスティング相談が増えています。ポイントは、キャストの組み合わせですね。ひとつのコンテンツに対して、話題の女優やYouTuber、モデルなどジャンルを超えたキャストを組み合わせることで、話題化を考えていきます。もちろん、配役にあうだけでなく、ストーリーや設定も重要なのですが、キャストの組み合わせによる相乗効果は、オールジャンル扱える総合キャスティング力によるものだと思います。
たとえば、某求人情報サイトの動画広告に、若年層に人気で、テレビやSNS(YouTube、Instagram、Twitter)で活躍しているインフルエンサーを複数名キャスティングしました。また、大手文具メーカーのイメージキャラクターにも、元格闘家、モデル、歌手、有名なご当地キャラクターをキャスティングしています。
─―どちらの事例も、「キャスト同士にどんなつながりがあるんだろう?」と思いますね。
山本:はい。キャスティングの妙と言いますか、話題化となるポイントです。キャスト間の関係性に気づく人はそれがおもしろいと捉えますし、それぞれのキャストにファンがいますから、話題化する起点が多く、結果として認知が高まることにつながります。
既存のキャスティングをアップデートしたい
─―最後に、今後のエイスリーのキャスティング戦略について、お聞かせください。
山本:デジタル領域を筆頭に、キャスティングに求められるニーズは、今後も広がっていくと考えています。エイスリーは、その変化にしっかりと対応できるよう、デジタルキャスティング強化プロジェクトを立ち上げ、キャスティングを最適化する研究を進めているところです。
また今後も専門ユニットは増やしていく予定です。たとえば、日本の芸能人やクリエイターの海外進出支援をしたり、日本企業の海外進出時に海外の芸能人やインフルエンサーを気軽に起用できるようにしたりする、グローバルユニットがあります。国内に留まらず、グローバルでナンバーワンのキャスティングエージェンシーになりたいと考えています。
そして、キャスティングの新しい価値も提案していきたいです。SPイベントユニットでは、MCやイベントコンパニオン等を起用する旧態依然だった展示会のキャスティングを、おもしろく変えていくことも考えています。たとえば、インフルエンサーや超イケメンを起用する、MCを司会芸人にするなど、顧客の課題に対しあらゆるジャンルのキャストで解決したいと思います。
私は、タレントのマネジメントや音楽プロモーターを経て、デジタルの業界へとキャリアをシフトしてきました。ブログをはじめとした発信ツールが増えていく中で、様々な人たちが才能を発揮して、発信力を強めていく様子を見てきたのです。キャスティングにより、多様な才能が活躍する場を得て、お客様の目的も達成される。そんな世界を実現したいと思います。