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SaaS事業の全体最適を導く「新・組織論」

SaaS事業のLTVを悪化させる部分最適は、なぜ「構造的に」起きるのか

部分最適に陥ってしまう、根本的な原因

 では、部分最適に陥る根本的な原因は何だろうか。これについては様々な考えがあるだろう。機能別組織自体の限界やマネージャーの力量、あるいは全体を見る担当者の不在ということがよく指摘される。

 しかし私は、その根本原因は目標設定の仕方にあると考える。つまり、マーケがリード数、ISが商談数、FSが受注数、CSが継続利用数を追うという目標設定こそ、この問題を起こしているのだ。たとえ全体を管掌する責任者を置いたとしても、この目標設定を行っている限り問題は「構造的」に解消されない。

 なぜなら、リードから継続利用までの変数は本来相関を持たせるべきにも関わらず、前述の目標設定はそれを考慮せず、各KPIを完全な独立変数のように扱っているからだ。

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 つまり、大量のリードを取っても商談に一切つながらない場合そのリードに意味はなく、いくら商談を取っても受注につながる必然性のない商談も評価すべきではない。これは当たり前のことではあるが、前述の目標設定は「リード数が目標に達してさえいれば、あなたを評価します」ということを暗に伝えていることに他ならない。マネージャーがいくら他チームへの貢献や全体を見ることが重要だと熱弁しても、設定したKPIは想定以上にメンバーの思考や行動を縛ってしまう。

立ち返るべきは、SaaS事業の「原則」

 では、どのように目標を設定すればいいのだろうか。実はシンプルで、SaaS事業の「原則」に立ち返ればいい。

 SaaS事業の原則とは、「まず"顧客の成功"を目指すことで、プロダクトが継続的に使われ続ける。そしてそれが最終的に"自社の成長"につながる」ということ。SaaS事業が美しいビジネスモデルと言われる所以でもある。

 そしてビジネスモデルだけでなく、目標設定も「顧客起点」で行えば部分最適は解消される。

実は、この解決アプローチは既に提示されている

 ここまで読んで、当たり前の話だと思う方もいるだろう。それも当然で、既に『THE MODEL』の第5章「分業の副作用」において、丸々1章割かれた中でこのようなことが書かれている。

 分業ではなく共業にシフトしていくためには、どうすればいいのか。
~中略~
 ここで必要なのは「逆の流れ」を作ること。カスタマーサクセスは顧客と接する中で、何に困ることが多いのかを研究し、製品開発やマーケティングメッセージに反映させる。
 ~中略~
 こうした双方向の流れが実現したときに、売上向上という共通目標に対して共同作業をする感覚が芽生えてくるだろう。
(福田康隆、2019年『THE MODEL』、翔泳社、p.67-68.)

 「逆の流れ(マーケ→CSではなくマーケ←CS)」というのが、まさに前述した「顧客起点で目標設定を考える」という発想と同質である。しかし、相応のページ数が割かれその重要性が説かれている中でも、実際には色んな場所で部分最適が起こっていると聞く。ということは、頭でわかっていることと実際に解決することには大きなギャップが存在しているのだろう。

 そのギャップを埋めるべく、第2回からはどのように顧客起点で目標を設定し、更にはどのようにチームを超えた共通言語を確立するかを解説する。

第1回のまとめ

・SaaS事業の機能別組織は短期間での成長を可能にするが、一方で「数⇔質のトレードオフ」「顧客への期待値設定ミス」という部分最適を引き起こす。

・これらの部分最適はLTV悪化に直結するだけでなく、相互連鎖して悪循環を生み、SaaS事業の成長の土台を揺るがす。

・部分最適が起こる根本原因は、目標設定の仕方にある。各チームが「リード・商談・受注・継続利用」という、本来相関を持つべき変数を独立して追う限り、部分最適は「構造的」に解消されない。

・問題を解決するためには、SaaS事業の「原則」に立ち返る。つまり、目標設定も「顧客起点」で行うことが必要。

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この記事の著者

横山 直紀(ヨコヤマ ナオキ)

 Fringe81株式会社 SaaS-Growth局長。東京大学経済学部卒業後、Fringeに入社。入社後は一貫して、消費財メーカーにおけるIMC設計支援~メディアバイイングに従事。2018年からは1年間株式会社エフアイシーシーに出向。『パーセプションフロー®・モデル』(※)を習得し、BtoB向けの本モデル構築サービスを開発後、Fringeに帰任。

 帰任後は、グループ会社が運営するSaaS事業『Unipos』におけるパーセプションフロー・モデルの構築と組織への浸透をリード...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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2020/03/25 08:00 https://markezine.jp/article/detail/33044

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