自分たちが熱くなければイベントは盛り上がらない
岡本:「勉強になりました」は敗北の言葉……非常にインパクトのある言葉です。たしかに、聞いて満足、では参加者にとっても何も意味がないですよね。川久保さんは、熱量あるイベントを作るため、どのようなことを意識されていますか?

川久保:これについては、「熱源の熱量と伝導率」「意識のすり合わせ」「Unlearning」の3つポイントがあると考えています。
1つ目は、「熱源=主催者や企画チーム」の熱量をいかに熱くできるかということ。自分たちが熱くないのにイベントが盛り上がる、参加者が熱くなることはないので、そこを熱くして、その熱をロスなく伝えていくことが大事です。
コアな熱量を高めるために、「自分たちの聞きたいセッションを作る」をテーマにセッションを依頼しています。自分たちがワクワクする内容かでテーマや登壇者を企画しているので、実は自分が一番聞きたい。運営しているから聞けないセッションがあるのが悔しいんです(笑)。
しかもCXの本質を議論することがイベントの趣旨なので、サービスのPRもしません。CXを学ぶ目的のためにどうイベントとしてあるべきかを追求しています。
とはいえ熱量が自分の中にあっても、自分一人ではイベントは実現しません。そこで2つ目のポイントが「意識のすり合わせ」。これには、それぞれの考えを可視化することが効果的だと思います。というのも、1回目から2回目でロゴを変更することになったとき、1回目の振り返りを付箋紙に書いてキーワードを抽出し、さらにデザイナーにグラフィック化してもらったところ、「CX DIVE」が空間としてどうありたいか、自分たちがどうしたいか、どういうイベントとして参加者に思われたいかのすり合わせができたという経験がありました。
3つ目はラーニングの逆で、学習したことをあえて一度捨てて0ベースで学んでいくことです。ここでの意味は、イベントの常識で考えないということ。参加者の方に、思いっきりイベント体験にダイブしてもらえるよう、必要ないものはなくしていく。たとえば受講票のプリントアウト、チラシ多数のパンフレットなどは不要と判断し、すべてなくしました。
またランチを体験の場に変える試みにもチャレンジしました。イベントだからこうあるべきということでなく、お客さんにとってこうあって欲しいから考えるのが大事だと思っています。

イベントは“数字で語れない”効果もある
岡本:「CX DIVE」でのお取り組みは、「CXとはこういうことか……!」と感じるものばかりで、プレイドさんの世界観が強く現れていますよね。ではお時間が迫ってきましたので、最後に、明日から活かせるアドバイスをそれぞれお願いできますか?
濱口:マーケターの方には、経営者サイドとのすり合わせを最初にしっかりしておこうと言いたいです。
「ROI<PER(株価収益率)」が大事と言っているのですが、そのイベントでいくら戻ってくるかを考えてしまうとやらない方がいいとなってしまう。もちろんそういう判断をするのが必要なときもありますが、イベントで中長期的な企業価値をどう作るか。その価値は何なのかをきちんと握った状態でやらないとマーケターは大変なことになる。イベントなので年間経費は計上しても、リターンが戻ってくるのはもう少し先というぐらいの考えでやった方が良いと思います。
もうひとつは、自分自身がおもしろいかどうかを判断軸にするということですね。おもしろいと思うものに人は動くので。広告会社やマーケターの人はワクワクを作るのが仕事なので、自分自身がワクワクして取り組んでいってほしいです。
川久保:イベントの場合、数値やマーケティング効果が見えない部分が出てきます。実際にアンケートで「人生変わりました」「ファンになりました」と書いてくれている人がいたり、本当に転職して仲間になってくれた人もいた。その見えない部分を想像するのがマーケターの仕事だし、イベントにとっても大事なことだと思います。
前回の「CX DIVE」のメインテーマに、「コンサマトリー」という言葉を掲げたのですが、これは行為に目的と手段を求めるのではなく、行為自体を楽しむ状態をあらわしています。先ほどの熱量の話でも言いましたが、そのイベントをやっていること自体が楽しい状態であるのが大事だと思います。