新たな取り組みに関わる、新鮮な毎日
――現在は、どのようなお仕事を担当されていますか。
配属された海外事業企画部での私のミッションは、当社のグループ会社である海外ブランドの国内展開プロジェクトと、海外ブランドの現地のマーケティング活動支援、そして海外事業全体のマーケティングの仕組み化です。私は、国内展開する海外ブランドのマーケティングを務め、同い年のプロジェクトリーダーと2人で、事業計画からオペレーションの設計まで進めていて、その中のマーケティングに関わるすべての領域を任されています。あるときは、1日中ソースのことを考えていた日もありました(笑)。このあいだまでTwitterにいて、広告営業だった人間が、今はお客様にお出しするソースのことを考えている……というのは、想像もつかなかったですね。これまでの私の業務は、マーケティングの4P(プロダクト、プライス、プレイス、プロモーション)のうち、プロモーションがメインでした。でも現在は、商品開発から店舗設計とすべてに取り組んでいます。立地開発から衛生面、購買と様々な部署の方と関わり、みなさんがどのような働き方や目線でビジネスを見ているかを必死で学んでいます。ビジネスが動いていく大きな波を目の当たりにしていますし、これまでにない体験でとても新鮮です。以前のキャリアとは、まったく違う世界に触れています。
――念願のマーケターとなり、あらためてマーケティングの魅力とはなんだと思われますか。
自分のブランドをとことん愛し、ブランドとともに人生を歩めることです。「このブランドと一生を添い遂げたい!」と感じられるのは、マーケターだからこそだと思います。仕事の中で大好きなものに出会い、お客様のことを考えながら、愛するブランドの魅力を伝えたいと必死になれるのは、事業会社のマーケターの特権かもしれません。とても幸せな仕事です。

トリドールのブランドは、できたてと感動体験を大事にしています。ファストフード業界は、まとめて調理を行うセントラルキッチンを採用し、仕上げを各店舗で行う効率重視傾向がありますが、当社はその真逆の方式を採用しています。丸亀製麺を例にすると、一店舗一店舗で毎日粉から製麺を行い、だしも数時間おきに店舗でとっています。天ぷらも手作り、できたてをお客様に提供しています。効率化やスケールよりもこだわりを選び、かつ毎日食べていただける価格帯という価値の提供が、お客様に驚きを与え、信頼につながります。さらにバリューは、それだけに留まりません。たとえば、丸亀製麺を代表する釜揚げうどんは、お客様ごとに好みの食べ方がある、人気のメニューです。とはいえ、お湯を張った大きな桶にうどんが入っている見た目のインパクトから、初めて食べるときはちょっと迷ってしまうんです。実は私も、初めて釜揚げうどんを頼んだとき、「どうやって食べるんだろう」と焦ったことがありました。そんなときに声をかけてくれたのが、私たちがパートナーと呼んでいる、店舗のベテラン女性スタッフです。「薬味はこれよ」「だしはこれを使って」と、食べ方をフレンドリーに手取り足取り教えてくれ、一杯のうどんを心から楽しんでほしいという行動にとても感動したことを覚えています。すべて手作りのこだわりとお客様の感動体験を大切にする価値観は、もちろん私が担当するブランドにもつながっています。
「マーケティングは生きている」の言葉に感動
――篠原さんが、仕事で大切にしていることは?
信頼ですね。英語で信頼を意味する、クレディビリティ(credibility)という言葉が大好きです。クレディビリティには、人によっていくつかの構成要素があると考えており、私の場合は、3つ。スピードと素直さ、そして謙虚さだと自己分析しています。スピードと素直さは、私の強みでして、意思決定や仕事のスピードは評価いただくことが多いですね。仕事が速いだけではなく、速いからこそ余裕が生まれて、周りの仲間へのケアや相手に合わせてスピード感を調整することもできます。先に走っていって道を作る、または伴走するなど、周りの様子を見極めて動くことが、信頼を作っていると感じます。また素直さは、裏表がなく、竹を割ったような性格のおかげです。ときには言いにくいことも、この性格だから伝えられることもある。誰かの代わりにうまく物事を伝え、チームワークを円滑化させることもできる。素直さを活かしたコミュニケーションは、大切にしていきたいです。
そして3つ目の謙虚さは、改善したい、私のウィークポイントです。謙虚さも、3つの要素で他者への感謝、素直さと反省する心から作られると考えていますが、ここでの素直さは、言われたことを受け止める姿勢を意味します。耳の痛いフィードバックを受けたら、むっとしてしまう気持ちはありますよね。そこをぐっとこらえて、まずは心の中にある自分基準のフィルターを外して一度受け入れ、フィードバックを咀嚼して受け入れていくプロセスが必要と自分にいつも言い聞かせています。反省する心は言葉のとおりで、ときには落ち込むことも大切だと思うんです。いいところを伸ばし、悪いところを改善していくと、人からの信頼が積み上がっていくと信じています。
また信頼は、相手があってのこと。これまでの職場もそうですが、トリドールでも一緒に働く上司や仲間、パートナーにとても恵まれています。印象的だったのが、入社面接での出来事です。とある方がまだ一緒に働く前の私に、「あなたのことを、信じているよ」と大きな期待を寄せてくれたのです。「未経験の仕事だけど、あなたは絶対にやりきる人です。人に助けてもらいながら、自分でどんどん意思決定していこう」と言われ、すごく嬉しかったですね。また、海外で働くカウンターパートナーも素晴らしい人たちです。実は、このプロジェクトを務めるにあたり、彼・彼女たちが育ててきたブランドを日本にローカライズすること、そして未経験の私に任せることについて、どう考えているんだろうと不安があり正直に聞いてみたんです。でも、パートナーから返ってきたのは「Marketing is Alive」という言葉。これまでのやり方が正解ではなく、国や市場、お客様によって日々マーケティングは変わっていく。マーケティングは生きているものだと教えてくれました。「カナコを信じているし、あなたの信じるように進めていいのよ」と言われた瞬間、この人たちとなら一緒に良い仕事ができると感激しました。「Marketing is Alive」は、自分のマーケターキャリアの中で、忘れられない言葉になると思っています。

――今後は、どのようなキャリアを描いていますか。
トリドールで、早く一人前のマーケターになりたいと思います。海外事業部の専任マーケターとして第一号の採用ですから、責任を持って成果を出し、組織を大きくしていくことが直近の目標です。引き続き、英語スキルは終わりがないので磨いていきたいですし、セミナーなどの登壇機会をいただくことも増えましたので、積極的な発信にも取り組み、業界やいわゆる若手の活性化に貢献し、自分も学びを得たいです。セミナーは、自分の考えていることや学びを整理して、体系的に組み立てなおす、とても良いきっかけになります。人に話すことで自分自身にもより定着しますし、いろんな業界の方と会えることも魅力的です。それこそSNSを通じてすぐに人と直接出会える時代ですから、会いたい人には積極的にアプローチし、つながりたいです。
私の憧れは、柴田陽子事務所のブランドプロデューサー、柴田陽子さん。女性として、仕事と家庭のバランスも理想的なロールモデルです。マーケターになり、ブランドを作っていく毎日を過ごしていると、少しずつ、憧れの姿に近づいている実感はあります。とはいえ日本はまだまだ、女性のリーダーや経営者は少ないのが現状。ゆくゆくは、私自身が誰かにとってのロールモデルになれるように、これまで沢山の方にいただいた愛のある言葉をていねいに紡いで、心に描いた夢を現実にしていきたいです。