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湯を沸かせるメディアと組み、“あざとくない”道を行け ZETA山崎氏のBtoBコミュニケーション作法

 マーケティング・営業領域にテクノロジー化の波が押し寄せる昨今、「マーケティングツールのマーケティング」の重要性が増している。こうした状況下で、EC最適化ソリューションやCX向上、DMP、OMOソリューションを提供する「ZETA」は、業界メディアとの付き合い方に独自の戦略をもって成長を続け、2019年度に過去最高の売上高・利益を叩き出した。コロナ禍におけるコミュニケーション活動も、やるべきこと/やってはいけないことを明確にして取り組んでいる。本記事では同社の代表取締役である山崎氏とad:techを主催するコムエクスポジアム・ジャパンのCEO古市氏、そして翔泳社のメディア部門 統括編集長 押久保が、オンラインにて鼎談。日頃あまり明かされることのない「ツールベンダーのコミュニケーション論」を語り合った。

協賛メディアを絞り一点集中型で「湯を沸かす」

押久保:本日はZETAの山崎徳之さん、コムエクスポジアム・ジャパンの古市優子さんと、普段なかなかできない「マーケティングツールベンダーとメディアの付き合い方」をテーマにお話できればと思います。早速ですが、ZETAさんは長年、コムエクスポジアム・ジャパンさんのad:techやブランドサミットと、翔泳社が主催するイベントだけに協賛を絞ってきたそうですね。どうして2社に限定してきたのでしょうか。

山崎:一番の理由は、来場される企業群が当社と相性が良かったことと、最もリターンが大きかったことです。

ZETA 代表取締役社長 山崎徳之氏
ZETA 代表取締役社長 山崎徳之氏

 当社はECサイトの商品検索エンジンやレビュー・レコメンドエンジン、独自開発のDMPなど、高価格なBtoB商材を展開しています。ターゲットとなる企業群は大手企業や大規模なECサイトを運営している企業に限られているため、一点集中型のマーケティング戦略を取ってきました。

 というのも、7~8年前まではそれほどマーケティング予算が潤沢に取れる企業規模ではなかったのです。その頃、ある展示会に一番小さなブースで出展したんです。当時としては精一杯の予算をかけたものの、出展による効果はほとんどありませんでした。

 その時、小規模に出展するよりも、自社に合うメディアの特性を見極めて集中的に投資する方がお客様に振り返ってもらうことにつながるのではないかと思ったのです。

 高価格商材を限られた企業に対して販売するためには、例えで言えば「数を絞って強火力コンロでぼんぼん火をつけてお湯を沸かす」必要がある。数多くの弱火でちょろちょろやっていたって、お客様の心に火はつけられないと痛感したんです。

古市:「強火力コンロでお湯を沸かす」というのは良い例えですね。それは予算的な意味合いも、社内で動員する人的リソースもどちらの意味もありますか。

山崎:そうです。当社側のみならず、Webメディアやイベントなど、メディア側のリソースをフル活用することも大切ですね。

要望が明確であるほど、メディアからの提案も具体的に

古市:ZETAさんが当社のイベントに出展される際は、主催企業側としてもサポートしやすいと感じています。イベントを通じて実現したいことが明確ですし、プランも具体的です。「翔泳社さんとはこんな取り組みをしているんですよ」ということまで教えてくださるので、じゃあどう差別化しようかと考えることができます。

コムエクスポジアム・ジャパン President and CEO 古市優子氏
コムエクスポジアム・ジャパン President and CEO 古市優子氏

押久保:説明がロジカルで、何をしたいのかオーダーも明確ですよね。おかげでメディア側も提案内容を組み立てやすい。これは山崎さんが元エンジニアだからかなと感じています。

山崎:当社の商材が高価格帯だからということもあるかもしれません。ターゲット企業にピンポイントで刺しにいくマーケティングコミュニケーションを展開すれば良いので、お伝えする内容も自然と焦点を絞ったものになりやすいのです。

 低単価商材ですととにかく多くのクライアントを獲得しなければなりませんので、リード数の担保も必要です。するとどうしてもマーケティング活動の中心は、たくさんの企業にアプローチするPR寄りの内容になっていくはずです。

企画に乗ってくれるメディアを探し、“パートナー”の意識で

押久保:メディアを選定する際、他にどのような点に注目していらっしゃいますか。

翔泳社 メディア部門 統括編集長 押久保剛
翔泳社 メディア部門 統括編集長 押久保剛

山崎:メディア側に良い提案をしてもらうだけでなく、私たち自身がおもしろい企画を作ることを大切にしています。メディアと私たち協賛企業は、来場者にとって良いコンテンツをつくる“パートナー”の関係。私たちが考えた企画に「それいいね」と乗ってもらえるメディアを見つけ、一緒にできるとうまくいくはずです。

押久保:確かに山崎さんはいつも媒体特性を研究し、記事の企画意図をしっかり汲み取ってくださいますよね。取材前のリサーチや準備も万全なので、それが記事のクオリティにも結果にも繋がっている。当社の場合、『MarkeZine』と『ECzine』の2つの媒体をうまく使い分けていらっしゃいますね。

山崎:ええ。『MarkeZine』は媒体の規模が大きくなり、ブランディング寄りのメディアへ少しポジションが変わったと感じています。『ECzine』はリテールのジャンルで効果的に訴求できる一方、成長途中で尖った読者も多い印象がありますね。

押久保:山崎さんは海外にも目を向けていますよね。世界最大級のテクノロジーカンファレンス「Web Summit」に日本企業として初協賛され、その時私も同行して取材をさせていただきました(「自ら行動し、己の目で判断」ファーストペンギン、山崎徳之氏に聞くWeb Summit協賛のワケ」)。初協賛の狙いは?

山崎:他社が考えていないことをやりたいと考えて、出てきたチャレンジでした。メディア向けに5社限定でパートナーチケットを提供したことで大きな話題作りができるという目算もありました。「No pain, No gain」ならぬ「No venture, No gain」という精神なんです。

古市:コムエクスポジアムのフランス本社が主催する「Paris Retail Week 2018」に山崎さんが参加された際は、私もご一緒させていただきました。

 私や押久保さんの立場では、協賛企業と一緒にイベントに同行する機会はほとんどなく、協賛企業がイベント事務局にどのような要望を伝えているのかを生々しく聞くことも多くありません。山崎さんが「Paris Retail Week」の事務局に伝えていたことや、「強火力コンロでお湯を沸かすような」熱量でイベント出展にかける思いを知ることができて、とても勉強になりました。

コロナ禍で「あざとい」コミュニケーションは自爆する

押久保:新型コロナウイルスの影響で、各社マーケティングのアプローチを調整せざるを得ない状況に置かれています。山崎さん、古市さんは現在どのようなことを考えていますか。

山崎:業界全体について感じるのは、テレビCMが大きく落ち込むかもしれないということです。外出自粛によって消費者は自宅にはいるものの、広告主側はターゲティングという意味でも予算という意味でも、マスマーケティングからデジタルへのシフトが加速していく可能性が高いのではないかと。

 ここからテレビが巻き返すのか、デジタルを含めた違うメディアに大幅にシフトしていくのか。それは当社のビジネスにとっても大きな問題になるので、慎重に注視しています。

古市:顧客が広告に触れる機会は増えていますが、購買意欲がないんですよね。買い物の頻度や外出が制限され、先行きも見通せない状況ですから。各社のマーケティング予算に変化が見えてくるのは、2~3ヵ月後の夏ごろになるのではないかと考えています。

押久保:このような状況では、当然、広告主もメディアも、打ち出すメッセージを見直すことが必要になってきます。具体的にはどのように働きかければ良いのでしょうか。

山崎:「うちの製品がいいよ」と強く宣伝をするのは違うと思いますね。

古市:コロナを絡めすぎても“あざとい”感じがします。

山崎:そう。“あざとい”ってキーワードだと思うんですよ。これこそマーケターが最もやってはいけないことで。社会のことを考えずに目先の利益のために躍起になるのは危険です

 確かに今この瞬間だけで言えば、自社の利益になるかも知れません。でも中長期的に見ればその会社から顧客は離れてしまいます。それはここ5~6年のマーケティングの動向を見てもわかることで。“あざとくない”道を行くのが、実は近道だと思います。

それでも企業は、コミュニケーション活動を続けよう

押久保:まさにエンゲージメントの問題ですね。私自身もコミュニケーションの取り方が難しいと切実に感じています。たとえば、IT系や外資系企業などデスクワーク中心の業態を皮切りに急速にリモートワークが進んでいますよね。もちろん、この状況は喜ぶべきことです。

 けれど、今本質的に社会を支えているのは、病院やスーパーマーケットなどリモートワークができない仕事の方々かも知れない。その中で、起こっている現象の一部分だけを切り取ってリモートワークを礼賛するのは、メディアとして少し違うんじゃないかという迷いがあって……。

山崎:難しい話ですよね。これは私個人の意見ですが、今この状況下でメディアが「意見を表明する」ことが、実は一番の愚行なんじゃないかと思うんですよね。

 オフィスに出勤すべきか、休日に外出すべきか、子どもを保育園に預けるべきか……こうした一つひとつの行動について、何が正解かなんて誰も言い切れない。なぜなら、みんなそれぞれ、そうせねばならない事情を抱えているから。

 こういう時メディアが「こうすべき!」って煽ったって、誰も幸せにならない。「こういう視点もある」「その時あなたはどう思う?」と、ものごとの見方を提示する中立的なスタンスが好ましいのではないかなと僕は思います。様々な視点や可能性を提示することが、まさに「メディア」としての本来のあり方なのではないでしょうか

古市:広告主の視点では、時間ができた顧客も多いと思うので、いつもと路線を変えた形でもよいのでコミュニケーションを継続して消費者との関係性を絶やさない方が良いはずです。

山崎:仰る通りです。当社を含めてコロナの影響をそれほど受けていない企業は、今コミュニケーション活動を続けることは社会貢献の一つになると捉えた方がいい。今までと同様のビジネスをできるからこそ、オンラインイベントにもスポンサードしたいし、マーケティング予算を投下することで経済を回したい。そう考えています。

古市:こういう状況だからこそ、リアルとデジタルを対立関係と考えずに、協調・共生していくアイデアが出てくるのではという期待もできますよね。当社もそのための架け橋になるべく、ad:tech tokyo公式チャンネル「ad:chan」など新しい取り組みを仕掛けています。

押久保:世の中の前提が変わりつつある今、新しい挑戦はこれまで以上に歓迎されるでしょう。3月のMarkeZine Dayもライブ配信で行いましたが、これからもどんどんメディアとしての新しい価値の提供の仕方を提案していきたいと思っています。山崎さん、古市さん、本日はありがとうございました。

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この記事の著者

石川 香苗子(イシカワ カナコ)

ライター。リクルートHRマーケティングで営業を経験したのちライターへ。IT、マーケティング、テレビなどが得意領域。詳細はこちらから(これまでの仕事をまとめてあります)。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2020/05/21 10:00 https://markezine.jp/article/detail/33266