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デジタルシフトで「岩が動いた」、才流・栗原氏が語るBtoBマーケティングの最重要課題


多くの人が勘違いしていることがある

――マーケティングについて考え続けている栗原さんから見て、多くの人がとらわれていたり、勘違いしていると感じることってありますか。

栗原:基本的に私が常に思っているのは、マーケターとか、マーケティング業界人である前に「1人のビジネスパーソンである」ということです。

 マクドナルドをV字回復させた足立(光)さんが以前、「マーケティングは商売そのものだ」という話をしていましたが、本質はそこだと思います。マーケティングにしろ、営業にしろ「商売」のためにやっているのであって、商売を大きくしていくために、ビジネスパーソンとして何をすればいいのか、どういう価値を提供するべきなのかという順番で考えるべきでしょう。

――確かに、自分はデジタルマーケティング部門でSEO担当だから、このKPIを追ってパフォーマンスを上げていくというところで満足してしまうと、ちょっと危険ですよね。

栗原:マーケティング業界では「SEOはこうやればいい」「リスティングはこうする」「広告はこうやるのがセオリー」みたいな話になるのですが、根本は「ビジネスの話」をしているはずなんです。ビジネスを進める上での基礎体力的なもの、自社のビジネスに貢献するこそが重要なので、あまりマーケティングという経営学問上の領域やマーケターという役割にとらわれないほうがいいんじゃないかなというのは強く思います。

――「一流のマーケターになりたい」という若手や学生がやって来たときには、どうアドバイスしているのですか。

栗原:うちに入った新しいメンバーには、いろんな会社のビジネスモデルを学ぶことや、PLやBSを読めるようにとかなり熱く伝えています。あとは、ちゃんと締切を守る、事前に日程を提示する、レスを早くする、文章の論理構造をちゃんと整える、議事録はタスクとか決定事項から書き始めるとか。当たり前のことではありますが、ビジネスパーソンへのアドバイスとしてこうしたことを伝えています。

インタビューに答える栗原氏。今回のインタビューはZoomで行われた。
インタビューに答える栗原氏。今回のインタビューはZoomで行われた。

 「おすすめの本は?」もよく聞かれるのですが、私がおすすめしているのは『会社四季報』ですね。あとは「Strainer」という経済メディア。これは、さまざまな上場企業、注目されているビジネスがなぜ儲かっているのかを解説しているサイトなのですが、そういうビジネスレイヤーのインプットはしたほうがいい。

 ビジネスの全体がわかっていて、日々仕事を進めるスキルがあれば、あとは営業だろうがマーケティングだろうが、それぞれの領域での話を進めていくだけだし、デジタルマーケティングで新しいテクノロジーやツールが出てきても、情報をインプットしてそれについていけばいい。木の幹の部分、「ビジネスを前に進められる」という能力が大事なのであって、仕事はできないけどマーケティングで成果が出せるってことはないと思うので(笑)。

――ご自身の情報のインプットについては、どんなことを心がけていますか。

栗原:いろいろなメディア、Facebook、ポッドキャストまで大量にインプットしていますが、それは私の生活形態上、独身っていうのも大きいと思います。ずっと仕事のインプットをしているので……。あまり再現性のない話ですが。

――栗原さんは新しいチャネルを使ったアウトプットも積極的に行っています。最近の栗原さんの言葉で、「今みんな耳が空いているから音声コンテンツを始めた」というのが非常に印象的だったのですが。

栗原:確かに耳は空いてますね(笑)。

――そこに気づいてポッドキャストをやったり、動画にトライしていく。そういう柔軟でスピーディな発想や行動も、多くの人が栗原さんに注目する理由だと思います。

ビジネスの主導権は顧客の手に

――最後にあらためて、BtoBマーケティング、そしてビジネスがカスタマーエクスペリエンスにのっとった、よりクリエイティブなものとして機能するために、今後、企業はどのような認識を持って、変革に対応していく必要があるのでしょうか。

栗原:昔から言われていることではあるのですが、今回の新型コロナ感染拡大によって、ビジネスの主導権が本格的にお客さんに移ったのかなと思っています。意思決定、情報選択など、すべてお客さんが主導権を持って選ぶようになっていく。あらためて「顧客視点」というとちょっと陳腐なのですが、顧客視点に立ってビジネスを設計し直さなければならない状況になっています。

 CEBというアメリカの調査会社が2012年に発表した、BtoBの購買プロセスのうち57%は営業と会う前に終わっているという有名な調査があります。お客さんがウェブ上で情報収集し、自分で学習してベンダーを選んで、最終的に見積をもらうため、あるいは契約交渉をするために営業に会っている。だから、その前半のプロセスで選ばれなかったら、もう勝負にならないという調査結果だった。でも、企業側の情報提供がそれに即したものになっていたかというと、そうではなかったと思います。

 ウェブ上にコンテンツを出している会社は少ないし、料金表も導入事例もあまり出ていない。お客さんが自分で情報収集して意思決定できる環境にはなっていなかったのですが、今回の新型コロナに伴うデジタル化によって、それがかなり進むのではないか。企業と顧客の綱引きにおいてモメンタムが一気に顧客側に引き寄せられて、8割、9割がたはお客さんが自分で情報収集して、オンラインで説明を受けて、そのまま意思決定をするようになると思います。

――それはすごく大きな変化ですね。

栗原:そうですね。以前は、オフラインのセミナーによって1時間とか2時間、ユーザーをがっちり拘束できた。そこでニーズ喚起をやり切ることがセールスの勝ちパターンだという会社があったわけです。物理的に閉じ込めて、モチベーションを上げて買ってもらうというかたちで企業側が主導権を持っていたのですが、今はもうウェビナーなので……。

――オフラインのセミナーと違って離脱できますもんね(笑)。

栗原:拘束力がゼロなので、つまらなかったらすぐ落ちちゃう。ウェビナーの情報も集めやすくなっているし、ウェブなので場所による制限もない。本当にユーザーが選ぶという感じになってきました。

 なので、それに基づいて組織図も変えていかなければならない。テレアポの部隊だけ作るのではなく、顧客の購買プロセスを前に進められるように、あらゆることをやっていかなければならなくなったというのが、いちばん大きな変化かなと。実は昔からそうだったと思うのですが、ついに主導権が一気にガガッと顧客側に寄ったなというのが、今の状況ですね。

――多くの人が気づいていないレイヤーで起きている大きな変化がどういうものなのか、お話をうかがっていてそのイメージ明確になりました。ありがとうございました。

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この記事の著者

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

井浦 薫(編集部)(イウラ カオル)

MarkeZineで主に書籍を作っています。
並行して、MONEYzineにも力を入れています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2020/06/08 18:06 https://markezine.jp/article/detail/33381

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