なぜ若年層は「片手操作」、高年齢層は「両手操作」なのか?
ではなぜ、若年層では「片手操作」、高年齢層では「両手操作」が多いのだろうか? その問いに対し「スマートフォンの画面サイズが影響しており、若年層は小型の画面の割合が高く片手操作が多い、高齢層は大型の画面の割合が高く両手操作が多い」という仮説のもと、本実態把握調査の追跡調査(n=4,967)を行った。その結果、若年層では5インチ未満の小型のスマートフォン利用者が多いことがわかった。さらに、画面サイズ別に、性年代ごとの操作方法を分析した。しかしながら、画面サイズが5インチ未満の小型のスマートフォン利用者に絞って分析しても、6インチを超える大型のスマートフォン利用者に絞って分析しても、若年層では「片手操作」、高年齢層では「両手操作」という傾向は変わらなかった。そのため、「スマートフォンの画面サイズの違い」だけでは、若年層と高齢層の操作方法の違いは説明できない。画面サイズ以外の要因として、後述する「文字の入力方法」の違いが影響している可能性もあるが、根本的な要因は不明である。
スマートフォンの画面の向き
Webアンケートの回答時に限定した状況ではあるが、本検証調査の追跡調査の結果では、スマートフォンの向きについて、ほとんどの回答者が「縦向き」で操作を行っている(98.1%)ことがわかった。また、「縦で固定(ロック)している」という割合は、全体で54.2%であり、過半数を占めた。特に20代以下の若年層では74.9%が画面の向きを固定にしており、その割合が高かった。
文字の入力方法
「文字を入力する方法」について聴取した質問では、入力方法が多い順に「フリック入力」(48.7%)、「トグル入力(該当の文字まで複数回タップして入力)」(22.3%)、「フルキーボード入力」(20.8%)の順であった。特に若年層(20代以下)では、「フリック入力」の割合が66.6%と高かった。本検証調査の結果は、インターネット調査モニターの登録者を対象としているため、スマートフォンの操作に慣れている方が多く含まれており、全体として「フリック入力」の割合が高くなった可能性はあるが、若年層ほどフリック入力が使われている実態が明らかとなった。
また、JMRAのインターネット調査品質委員会が主催で行ったグループインタビューにおいても、10代女性ではフリック入力を用いて素早く文字入力を行うのに対し、団塊世代の男性はローマ字入力を用いて入力を行うため、文字入力に非常に時間がかかる様子が明らかになっている(同程度の文字の入力内容で16歳の女性は13秒、69歳の男性は68秒)。
操作方法の多様性にも着目しよう
ここまで紹介してきた通り、性別や年齢層によって、スマートフォンの操作実態は大きく異なる。Webコンテンツを制作する際、PCだけでなくスマートフォンでの操作を前提とするのは当然であるが、人によって操作方法が異なることについても留意しておく必要がある。
本稿で紹介した知見を具体的にコンテンツ制作に活用するとすれば、以下のようなことが考えられる。若年層では、スマートフォン操作を右手・親指で行うことが多い。右手・親指での操作の場合、画面左上には届きにくいことが考えられるため、特に若年層をターゲットとしたWebサイトやスマホアプリを設計する際には、画面左上に操作頻度の高いコンテンツを置くことは望ましくない。加えて、親指での操作を前提とした場合は、小さいボタンやリンクなどを正確にタップすることは困難であり、部品の大きさへの配慮が必要であろう。画面の向きについては、「縦向き固定」に設定している人も半数以上存在しており、特にWebサイトにおいて、横向きへの切り替えを強制することは困難である。また、高年齢層では文字入力に時間がかかることに配慮し、Webフォームではなるべく文字入力をさせる箇所を減らす、といった配慮も必要である。
D2Cビジネスの発展など、インターネットを介して直接的に生活者とのコミュニケーションが行われるようになり、そのコンテンツの重要性は増している。こうしたコンテンツでは「スマホファースト」で設計されることが多くなってきているが、スマートフォンを操作する人の多様性については、見過ごされがちである。「スマホファースト」だけに留まらず、人によってスマートフォンの操作方法に差があることを考慮し、柔軟な設計を行っていくことが求められるであろう。